人の姿になるための過剰反応
考え事や相談事となると、俺は小屋に関係者を集めて話をするようになった。
今回も同じように、俺たちの小屋にモココとグレフルを呼んで、囲炉裏の周りに座る。
「まあ食事でもしながら話をしようか」
「そうね」
俺とルシルで料理を作り、モココがそれを取り分けてくれた。
「グレフルは身体変化しないのか?」
「はい、オレはその力が無いみたいで。まだ噛まれていないと言うのもありますけど」
「やっぱり噛みつくのが大事なのかなあ……」
人間の姿へ変えられる能力は、どうやら感染に近い広まり方をするらしい。
「動く死体みたいな感じなのかな。噛まれた奴も、その能力を得てしまう」
「今の状況を見るとそうよね。羊に噛まれた狼が身体変化できるようになっちゃっているんだから」
「そうだな。それまでは当然狼たちは変身なんてできなかったわけだし」
俺は取り分けたパンとスープを手元に置く。
「とりあえず食ってくれ。食べながら話をしよう」
「そうね」
「はい」
俺たちはそれぞれ食べ物を口に運ぶ。グレフルは狼の姿だから皿に鼻先を突っ込んでスープを飲む。器用に舌を使ってすくい取るように飲んでいた。
「ねえ、シルヴィアの弟も身体変化したけど、あれとはちょっと違いそうね」
「そうだなあ。カインは猫族の獣人だが、月の光が身体変化に影響していた」
「それに元は人間の男の子だったのに、身体変化すると女の身体になるっていう獣人化だよね」
「ああ。ふむ……」
俺はスープを一口すすり、スプーンを咥えながら考えを巡らせる。
「ふむ、ふむ……」
スプーンが俺の歯に挟まれてゴリゴリと音を立てた。
「カイン……モココ。そして噛まれた狼……」
「なにか解る?」
「ふむ……あ」
咥えていたスプーンを落としてしまった。
スプーンは床に落ちて乾いた音を立てる。
「カインは元々人間で、それが獣化した」
「うん、原因は判らないみたいだけど」
「そうだな。それで、モココたちは元々羊で、それが人化する」
「区分けするとそうね」
「カインの獣化は月の光が関係するけど、モココたちは自分の意思で身体変化できるんだよな」
俺の問いにモココがうなずく。
「同じような身体変化と思っていたが、これは別物と考えた方がよさそうだ。モココたちの能力は狼たちへ伝染したように、他の動物にもうつせる。考え方によっては危険な能力だ」
皆が息を呑む。
「危険、そうよね。危険よね」
「危険なんでやんすか?」
ルシルの反応にモココが困ったような顔を見せる。
「ああ。へたをすれば森の動物、いや、全ての動物が人化の能力を持ってしまう事にもなりかねん」
「全ての動物……」
「モココ、お前たちの身体に異常がなければ大丈夫なのだが。お前たちは元々持った能力なのか、この身体変化は」
「え、えっと……あっしらは……ごほっ、ごほっ」
モココが口を押さえて咳き込む。
「おいモココ、どうした!」
「カハッ!」
押さえた手から赤い血が噴き出す。
血を吐いたモココが前のめりに倒れ、皿や食器をひっくり返してしまう。こぼれたスープが囲炉裏の火にかかり、煙のように灰をまき散らした。
「モココ! おいっ!!」
俺はモココを抱きかかえて口元の血をぬぐい、治癒のスキルを発動させる。
「Sランクスキル発動、重篤治癒! 怪我や傷ならこれで……」
苦しそうにあえぐモココから、時折血の混じった咳が出た。