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今度はなにが足りないんだ

 俺は草原で空を眺める。まだ日は高い。

 羊人間ワーシープたちが身体変化メタモルフォーゼするようになってから、この辺りは賑やかになった。


「なあグレフル」

「なんですかゼロさん」


 グレフルはかなり大きな狼だが、狼だ。身体変化メタモルフォーゼはしない。

 人間の言葉はしゃべれるが、それでも狼だ。


「お前たち狼はモココみたいに姿を変えたりしないのか?」

「オレたちはしないですね」

「そうか」


 俺の中に宿る違和感。


「ちょっと待て、今、しないって言ったよな?」

「ええ、言いましたよ」


 胸のモヤモヤが大きくなる。


「まさかお前たち、できないんじゃなくてしない、のか?」

「あ!」


 俺の考えている事がグレフルにも伝わったらしい。少し驚いた顔をして、それから普段の狼の顔に戻った。


「ご心配なく、オレたちは人間の姿にはなれないです。済みません、誤解を生むような言い方をしてしまって」

「そ、そうか。それなら、うん、まあいいか」

「済みません」

「いいんだ、いいんだよ。そうだよな、そう簡単に変身できたりしないよな、うんうん」


 俺は無理矢理にでも思えるような納得をしてみせる。

 そうだ、そんなに人間っぽい奴がいっぱい増えたら、ルシルと一緒にこの土地へ移り住んだ意味が無くなる、と。


「まあ、別に。多少の交流はあってもいいが、世間から逃げ出した俺たちにとって、人間っぽい連中に囲まれるのってなあ……」


 少し複雑な気持ちになる。


「ゼロの殿様、そうなんでやすか?」


 モココがモコモコの身体を揺らして駆けてきた。


「まあな、俺たちは二人だけで暮らしたかったから、こんな賑やかなのは久しぶりだよ」

「そうなんでやすね……。あっしら、お邪魔でやんしたかね」

「うーん、まあそういう訳でもないんだけどな。たまにはいいけど、これが常態化するとな、なかなか問題も出てくるもんだよ」

「へぇ。でもあっしらは森の守護者でやんすからね、なにかあっても羊人間ワーシープ軍団と狼軍団でゼロの殿様たちをお守りするでやんすよ!」

「ははっ、それは頼もしいな」


 確かにモココの電撃はグレフルを一撃で倒すくらいの威力があるから、その自信も嘘ではないのだろう。


「それなら俺たちはゆっくりと過ごすから、あとはお前たちでうまくやるんだな」

「畑は近くにありますから、ちょくちょく会うと思うんでやんすけどね」

「それは別に構わないさ。ご近所付き合いも嫌いじゃない」

「それはよかったでやんす!」


 モココが座っている俺にすり寄ってくる。

 少し電撃が来というか、ピリッとした感じがするが、まあ気にしないでおこう。


「あ、そうだ!」


 モココがなにかを思い出したようだ。


「どうしたモココ」

「あのでやんすね……ちょっと言いにくい事なんでやんすが」


 さっきまでニコニコしていたモココが困った顔つきになる。


「あの……」

「なんだよ、歯切れが悪い」

「申し訳ないでやんす!!」


 なぜかいきなり深々と頭を下げ謝った。


「食べる物が……なくなっちゃったでやんす!」

「なんだと? 豆は収穫するまで俺が分けてやるって言っていたのに」

「いえ、殿様からもらった豆じゃなくてでやんすが……」

「じゃない、とすると?」

「森……」

「森?」


 モココは小さくうなずく。


「森の草、みんなあっしらが食べ尽くしちゃったんでやんす」

「なにっ?」


 このところモココたち羊は狼にも襲われず、他の肉食動物たちにも襲われていない。

 それはモココの強さとグレフルたち狼がモココたちの護衛をしているからだ。


「それがなぜ……いや」


 よくよく考えれば解る。

 羊たちは襲われなくなって、安全に食事ができていた。

 自分たちは食われないから個体数も減らない。それどころか子羊が生まれればそれだけ草を食べるようになるのだが。


「今いる羊たちが……」

「はい、食べて食べて、食べまくっちゃったんでやんす」


 考えてみれば肉がうまかったからって狼に噛みつくような羊たちだ。

 手当たり次第に草を食いまくって、森の草を食っちまったのか。


 なんちゃってミートのために豆は栽培しているが、次は羊たちの食事も考えなくては。豆だけではなく、草も生えるように。

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