それって選べるの?
俺たちは畑を大きくするために汗をかく。
農具は木を伐りだして用意した木材で賄うが、それでも使える者は俺とルシル、そして羊人間のモココだけだ。
「畑を耕す道具を作ってみたけど、結局道具を持てるのって俺たちだけだからなあ」
「そうだねぇ、狼や羊は、自分の前脚とか角とかで土を掘り返しているからね。って言うかゼロ」
「なんだよ」
ルシルは畑の脇にある鋤や鍬を眺める。
いくつも折り重なって、山積みになっている物だ。
「こんなに農具を作る必要って、あったの?」
「うっ……」
俺は言葉に詰まる。
確かにルシルの言うように、そこまで農具の数は多くなくてよかった。
「ちょっと作り始めたら、なんとなく調子が出ちゃってさ」
「まあね、壊れたら新しい物があるって考えれば、数があっても問題無いけどね」
「そ、そうだよな!」
俺はその場をごまかすために同意してみせる。
「あっしはいっぱいあった方がいいと思うでやんすよ」
「モココ……」
モココは畑を耕しながら、額の汗をぬぐった。
「この道具があるから、畑を大きくするのが楽になっているでやんす」
「そうだよな、うんうん」
だが、モココが持てる農具だって一本ずつ。百本はある農具を使い潰すのに、どれだけかかるのか。
「グレフルたちが牽いて使えるように改造すれば、これだって使い道があるよな」
俺は木材と農具を組み合わせて、荷馬車のような物を作った。
荷台に当たるところには、鍬を並べて据え付けて、それを狼が牽引すると、広い範囲でまとめて畑を耕す事ができる。
「わぁ、ゼロ、これいっぺんに土を掘り返せて便利だね!」
「そうだろうそうだろう。俺が作った農具が無駄になるどころか、効果的に使えたじゃないか」
「うん、使い道に迷ってとりあえず並べて狼たちに牽かせたら、なんとなく形になった感じだもんね」
「ぬぬ……」
なんだか言葉の端々に棘を感じるが、俺はそれを気にしないでおいた。
「ゼロの殿様」
「なんだモココ」
「あっしが思うに、ゼロの殿様の考えはすごいと思うんでやんす」
「そうかそうか」
そう言われて俺も悪い気はしない。
「でも、ちょっと見て欲しいんでやんす」
「うん?」
モココが示す先。
「あれ? モコモコした人間がいるな。モコモコ? 人間?」
畑にはモコモコの毛に覆われて人の姿をした奴らが農具を持っていた。
「なんだこいつら……いや、モココと同じ、か?」
「ご明察でやんすよ、ゼロの殿様!」
そう言われても俺にはピンとこない。
「こいつらはいったいなんなんだ? 急に現れたようにも見えるが……」
「別に急じゃあないでやんすよ」
「え? 急じゃないって言うと……」
もしかして。俺の想像は当たっているのだろうか。
「こいつらも……羊人間だったって事か?」
「そうでやんす」
簡単に肯定するモココ。
「いやいや、いきなりそう言われてもだなあ」
だとすると、俺たちが守っていた羊たちは、そもそも羊人間だった訳だ。
それって選んで人間の姿になれたりするっていう事か。
「でも、人間の言葉はしゃべれないんでやんすけどね」
「お、おう……」
しゃべれるかどうかじゃない。こんなにも人間の姿に似せる事ができるというのであれば。
「農具はいっぱいある。好きに使ってくれていいし、畑の耕し方とかはもう知っているよな?」
理解してもらえているかどうかを試してみたが、どうやら羊人間たちは俺の言語を認識できているようだ。
「そ、それじゃあ畑の拡張、よろしく頼む」
俺の掛け声で羊人間たちが両手を挙げてそれに応じた。
「さすがはゼロの殿様、彼らをまとめて指示するとは。それを見ちゃうと、あっしはまだまだだなあって思うんでやんす」
なにを感心しているのかはいまいち判らないが、それでも嬉しそうなモココを見て、俺も嬉しい気持ちになる。
モココはモココで不安や悩みがあると思うが、それでも仲間たちを見捨てないように、身体変化した羊たちの補助に入った。
これが安定化すれば、食糧問題も解決するのだろうか。
俺はそんな事を考えながら、てんでバラバラに動く羊たち、いやに羊人間たち対して、道具の使い方を指導したりして、思わぬ動きに汗を流す事になった。