うますぎたなんちゃってミート
狼に噛みついた羊たちは、多分済まなそうに頭を下げている。
「なあモココ、なんでこいつらは狼になんて噛みついたんだ?」
「うーん……」
モココは羊たちになにやら囁き、羊はモココに涙目でキューキューと鳴く。
「ふんふん……」
「なんだ、判ったのか?」
「う……判るには判ったんでやすが」
「歯切れが悪いな」
「それが……」
モココは夕飯用に使った鍋を指さす。
「鍋? それがどうした」
「問題はその中身でやんす」
「豆で作ったスープか」
モココがうなずく。
「その豆料理……いや、なんちゃってミートがあまりにもうまくて……」
「そうか、だったらもっとお代わりすればよかったな。そんなにうまいうまいって言うのなら、ルシルだって喜んで作ってくれただろう」
俺が代弁したように、ルシルは嬉しそうにしている。
「うまかったんでやんすが……」
「腹でも壊したか? いや、羊でも大丈夫だろう、元々は豆なんだから」
「それが、あの、こいつら……こんなに肉がうまいっていうの、初めてだってんで……」
「え? まさか……」
「はい……」
羊たちに俺たちの共通語が理解できているかどうかは判らないが、それでもまた更に小さくうずくまった。
「本物の肉は、どんだけうまいんだろうって、かじっちゃったんでやす」
「おいーーー!」
俺の突っ込みにモココも羊たちもびっくりする。
「いや待てよ、羊が肉を食いたくて狼に噛みついた!? えっ、なに!?」
俺も少々頭が混乱してしまう。
「肉食の羊なんて聞いた事がない……いや、でもそういう種がいてもおかしくは……ない、か?」
「おかしいでしょゼロ!」
ルシルが俺の背中を叩く。
「だ、だよな。そうかあ、草食動物も肉食にしてしまうくらいに、なんちゃってミートがうまかったって事なんだな、うん」
「ま、そうなんだろうけど……」
ルシルはいまいち納得がいかない様子だ。
「でもさモココ、羊は肉を食えるのか?」
「いえ、ゼロの殿様が言うように、あっしらは本物の肉を食うと腹を壊してしまうんでやんす」
「だ、だよなあ」
俺は当たり前が当たり前である事に、なぜか安心した。
「でも待てよ」
「どうしたのゼロ?」
「そうは言っても羊たちも肉が、いや、なんちゃってミートはうまかったって事だよな」
「だから狼に噛みついちゃったんでしょ?」
「ああ、そうなんだよ。そうなんだよな。だとすると、なんちゃってミートは羊にとっても安心して食べられる肉料理になれるって事だよ!」
「あっ!」
なんちゃってミートは豆でできている。豆は植物で、羊たちは日頃から当たり前のように食べている物だ。
「だったらなんちゃってミート料理を作れば、羊も狼も大喜びって事だよな!」
「おー。ゼロ、そこに行くのね」
「そうなると豆の増産は急務だ! モココ! グレフル! もっと畑を広げなければな!!」
俺の意気込みを見て、モココもグレフルも興奮したように目を輝かせていた。
「よし、次の畑はもっと広く、たくさんの豆ができるようにしよう!」
「はいでやんす!」
「ワオーン!!」
ルシルの視線が少々冷たい気もするが、それは見なかった事にしよう。
俺たちは明日からの開墾に、また精を出す事にした。