ゾンビも種類はいろいろあるのです
俺たちは動く死体の群れから抜け出して荷馬車を走らせる。
「あれだけのゾンビがいたというのに、他の村には広まっていなかったな。この地域だけなのかこれから広がっていくのか……」
「ゼロさん、どういうことですか」
俺の疑問にシルヴィアが困り顔で質問してくる。
「ゾンビって、死体が動くという他にも何か……」
「ああ。確認はしていないのだがゾンビにもある程度傾向があってな。俺も人革の魔導書の所持者、ピカトリスからの受け売りなんだが」
記憶をたどりながら説明する。そうする事で俺も認識を再確認できるからだ。
「動く死体と言っても大きく二つの傾向がある。これは前に説明した、死体に低級霊や精霊を封じ込める方法。もちろん死体の元の魂を入れる事もできるが、人間や魔族などの高等生物の魂を入れ直す事は大変だから、手っ取り早く使役のできる精霊などを使う方が楽だという」
「もう一つは死体というよりは」
「ああ、生きたまま本能の部分だけの能力、存在になるというものだ。人格や知識といった部分は削り取られてしまって生物の根源の部分だけ残っている状態。ただそれでも死んではいないらしい」
俺とシルヴィアの会話に、荷台にいたルシルとカインも加わる。
俺は手綱を操りながら説明を続けた。
「前に見た犬のゾンビやさっきの人間のゾンビも、低級霊が封じ込められていると見る事もできるが、それでは生きている人間を襲うという行為には紐付きにくい。どちらかと言えば食欲の本能が残っている、と見るべきだと思ったんだ」
「そうなのですね。ではその広まるというのは……」
「そこは俺もよく知らないのだが、ゾンビに噛みつかれたりすると噛まれた奴もゾンビになってしまうという事があるんだ」
シルヴィアとカインが青ざめた表情で俺を見る。
ルシルは知識として持っていたのだろう。特に混乱は見られない。
「低級霊を封じ込める方法では噛まれようが何しようが相手に霊が移る事はない。噛まれた奴もゾンビになる事はないがな。だが本能だけ残した奴はどうやら噛んだ相手にその機能、能力を伝播させるらしい。簡単に言えば、噛まれた奴も本能以外の機能が徐々に消えてしまうようだ」
「それで噛まれた人がゾンビになってしまうと……」
「そういう事だな。今回の奴らは感染する連中のようだから、先ずは噛まれないようにする事が重要かもしれない」
荷台の方で話を聴いていたカインが少し落ち着かない様子だが、俺は馬を操る事に注力しているために細かいところまでは判らない。
「そ、そうなんだ……」
「大丈夫カイン? あんまり顔色がよくないけど」
「うん、平気だよルシルちゃん。ちょっと休んでくるね……」
カインは昼間、月の光よりも太陽の光の方が強い時は、人間の男の子の姿になる。
これがシルヴィアの弟としての姿なのだが、日が沈んで月の光が強くなると猫耳娘に変身してしまうのだ。
その身体変化で体力を消費するようなので、日頃から気怠い状態になってしまう。
「まあそれもあったから俺は噛まれないように気をつけていたのだが」
俺は街道の先を見る。
そこは城塞都市ガレイに似た、壁に囲われた町が見えた。