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広大な開墾

「うわぁ~!」


 モココやグレフルたちは俺たちの作った畑を見て驚きの声を上げる。


「ここの畑で取れた豆で、なんちゃってミートを作ったんだよ」

「へぇ! すごいでやんす!!」

「豆だったらたくさん取れるからな、そうすれば羊たちも狩られずに済む」

「うんうん!」


 モココが俺に抱きついてきた。もこもこの頭を俺にすりつけてくる。


「でもどうしてこれを教えてくれるんでやんすか?」

「別にいい点だけをお前たちに教えようと思った訳じゃない。この畑をお前たちで作って、自分たちでなんちゃってミートを作れるようにする、それが俺の考えだ」

「あっしらで作れるんでやんすかね……」


 モココは羊人間ワーシープだから道具はある程度使えるだろうが、他は狼だからなあ。


「農具を引っ張るとか、物を咥えて運ぶとか、そういった所かなあ。なあグレフル」

「は、はいっ」

「そう緊張するなよ。お前たちは畑を作るのにどういう事ができそうかな」

「そうですね、オレらだと……草をむしったりだとか土をほじくったりはできますが」

「ふむ……よし、モココ、グレフル」


 俺はまだまだ広がる平野を指し示す。


「あの辺りを好きに使っていい。種も分けてやるし、収穫までの期間食う物も俺が用意しよう。だから畑を作ってみろ」

「お、おお……」

「俺たちが畑をどう作ったかとか、それに使った道具なんてのも貸すから」

「すごい……」


 モココたちは新しく生きる方法を作れるという事が嬉しかったんだろう。目をキラキラと輝かせて、平野を見ていた。


「さあ、そうと決まれば少しでも早く、作業に取りかかろう!」

「おおー!」


 俺の掛け声でモココたちが平野に解き放たれていく。


 狼たちは畑になる場所の草をむしり、ある程度ひらけた状態で土を掘り返す。狼たちは前脚や鼻先でほじくり返すものだから、顔中土まみれになって作業をするが、それでも楽しそうにしていた。


 用水路の確保で溝を掘り、この畑用の溜め池も作る。


「ほう、そこそこ形になってきたじゃないか」


 数が多いというのはすごいもので、ものの半日で広い畑ができあがってしまった。


「一気にやる事もないからな、そろそろ日も落ちる。豆を蒔くのは明日にして、今日は終わりにしようか」

「はいでやんす!」

「ワオン!!」


 めいっぱい働いた俺たちは、川に行って身体の汚れを落とす。用水路のために支流を作ってあって、そこだったら流れも緩やかでそんなに深くもない。狼が入っても流されたり溺れたりする心配はしなくて済む。


 傾きかけた太陽の光を浴びて、俺たちは川で遊んでいるようにも見えた。


「さあみんな、ご飯できたよー」


 ルシルが呼びに来てくれる。


「なんちゃってミートの肉団子が入ったスープだよ。いっぱい作ったから好きなだけ食べなー」

「ワオーン!!」


 畑のそばに煮炊きする場所を作って、そこでルシルが料理をしてくれていたのだ。

 狼たちは川から上がって身体を震わせると、みんな一斉にルシルの元へと駆け出していく。


「そう慌てないでよー」


 モココも給仕を手伝ってくれて、大きな器にスープをよそってくれる。器は狼が数頭一緒にご飯が食べられるくらいの大きさで、それがいくつも用意されていた。


 狼たちが食事を進めているのを見て、ルシルが俺の所へやってくる。


「一日でこんなに作っちゃうなんてすごいね」

「これだけの土地だ。俺が作るのは骨が折れるが、こうして作ってくれる仲間がいれば早いもんだよ。これなら豆もいっぱい生産できるようになるな」

「なんだかんだ言って、ゼロは面倒見がいいよね」

「森の事も、放っておけばいいんだろうけど、なかなかなあ。気になっちゃうんだよなぁ」


 やり始めればあっという間だったかもしれない。

 そんな気持ちが俺の中に湧いてきていた。


「ルシルの姫様ぁ!」


 モココが耳をピコピコ動かして嬉しそうに駆け寄ってくる。


「狼たち、みんなうまいうまいって言ってやんすよ! ルシルの姫様が作ってくれたこの肉団子、大好評でやんす!!」

「そう、よかった。こんなにいっぱい作っちゃったから、美味しくなかったらどうしようって思ってたけど」

「そんな! あっしらは食えるだけでもありがたいのに、うまくって量もいっぱいで……」


 モココは目を潤ませてルシルを見た。


「明日からも頑張るでやんすよ!」


 こぼれる涙と満面の笑み。


 畑作り、やってよかったと思えた瞬間だった。

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