肉食動物も大喜びに
モココたちが森の守護者となって二日が経った。
モココは羊人間だ。人間の姿をしている時でも羊要素が出ている。
その羊がずっと狼を追いかけていた。
「それぇ! 悪さをする獣は捕らえるんでやすよ!」
「ワオン!!」
実際には狼たちは肉食動物を追いかけ、その狼たちをモココが追いかけているのだ。
「なあモココ」
汗をかいているモココに俺は話しかける。
「確かに森の中は殺し合いが少なくなったと思う」
「そうでやんしょ?」
「それは認めるのだが、過剰な取り締まりは逆に森の活性化を停滞させるんじゃないかね?」
「そうでやんすかね?」
俺はてを後ろに縛られて逆さまの状態で木から吊るされていた。
「俺だって食うために山羊を狩ろうとしたんだが」
「だから罠にかかるんでやんすよ」
「いや、だからっていってもなあ。食べる分は仕方がないんじゃなかったのか?」
「う~ん、でも目の前で動物たちが狩られていく姿、あっしは見ていられないんでやんすよ」
「それは解るが、いや、解っているつもりだが……それだと肉食動物は死に絶えてしまうじゃないか」
「ぐぬぬ……」
俺は手首を動かして縄を抜け、腹筋を使って足首に巻き付いている縄をほどく。
手を放したところで落下するが、受け身を取って無傷で着地した。
「それは争いのない森を作るという理念に反しているんじゃないだろうかね?」
「ぐぬ……」
「必要な殺しは認めてくれないか」
「ぐ……」
モココは眉間に皺を寄せてうなるばかり。その周りをグレフルたち狼が心配そうに囲んでいた。
「でも、そうしたら食べられてしまう動物たちが哀れでやんすよ……」
涙ながらに訴えるモココ。
「モココには解らないかもしれないが、肉は肉でうまいんだよなあ……」
「うっく……」
「とはいえ、命の大切さというのはそれはそれで理解できる」
「うん……」
「だからだ。これ」
俺は一つの塊をグレフルたちに差し出す。
「うおっ、これは……」
やはりグレフルたちも肉はここ数日口にしていなかったのだろう。俺の差し出した塊を見てよだれを垂らし始める。
「俺の畑で取れた豆を使って作った、なんちゃってミートだ」
「なんちゃってミート!?」
「そうだ。元は豆だからな、動物を殺さなくても作れるし、味も血のしたたる生肉とまでは言わないが、味付け次第ではそこそこいけるぞ」
グレフルたちは長い舌を出してなんちゃってミートに釘付けだ。
「少し食べてみるか?」
大きく縦に首を振る狼たち。
「よし、試してくれ」
「わふん!!」
俺がなんちゃってミートをグレフルに渡すと、勢いよく飛びついてきた。
「ふがっ! ふががっ!」
「どうだ?」
話しかけても食べる事に集中してしまっている。
「仕方がないな……」
俺は背負っていた荷物袋からたくさんのなんちゃってミートを取り出し、周りの狼たちにも分けてやった。
「がうっ!」
「ふがふがっ!!」
狼たちは我先となんちゃってミートを頬張り、嬉しそうに食べている。
「味はなかなかよかったようだな」
「ワオン!!」
狼たちの返事が雄弁に物語っていた。
「どうだモココ。これなら生き物を殺さなくても肉食動物たちを満足させられると思うが」
「おお……ゼロの殿様、流石でやんす……。だったらどうして狩りをしようと……」
「それか?」
俺は自分が捕まった罠を指さす。
「俺が狩りを使用と動けば、森の中でお前に会えるだろうと思ってな」
「そ、そうだったんでやんすか……。言ってくれればあっしはすぐに駆けつけやんしたのに」
「そうか? それは悪い事をしたな」
モココは涙を拭きながら首を横に振った。
「そのなんちゃってミートの作り方、あっしらにも教えて欲しいでやんす」
「おう、もとよりそのために来たんだ」
俺はモココたちを引き連れ、一旦森を出る。
畑に連れて行けば、食料の生産がどういうものか、理解してもらえるだろうと思い。