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森の守護者

 モココは草食動物でもある。肉を食べる事はない。

 だが、森の中には肉を食べて生きている連中もいるし、俺たちも狩りをして獣の肉を食っている。


「モココよ、お前の言うように争いのない森は存在するのか?」

「うぐぐ……」

「争いを生まないために肉食動物を駆除し尽くすのは争いにならないか?」

「うぐ……」

「力が全てとは言わないが、自分の身の安全、そして自分が大切に思う者たちが守れる力、それがあればいいんじゃないか?」

「う……」


 モココは眉間に皺を寄せながら考えているが、頭の中はグルグルといろいろな事が巡っているようだ。


「わ、解ったでやす!」


 こいつ、目がいっちまってる。


 モココは狼に覆い被さると、背中に噛みついた。


「あっしも肉を食うでやんすよ!! 食ってやるでやんすよぉ!!!」


 狼の背中をかじり取ろうとするが、もとより肉を食うような歯にはなっていない。


「あだだだだだ!!!」


 意識を取り戻した狼が涙ながらに吠える。


「こいつを殺ひて、肉を食えば……あっしは、次の世界へと進めるんでやす……」

「いやいや、そうはいかないだろ……」


 俺はあきれながらモココを狼から引き剥がす。


「あいったぁ~、ひぃ、ひぃ……」


 狼は噛まれた背中を地面に押し付けて痛みに耐えている。

 端から見ればひっくり返ってゴロゴロしているようにも見えた。


「モココ、お前の心意気は俺も理解した。まあそう短絡的な考えになるなよな」

「で、でもぉ……」


 モココも涙目になって俺を見つめる。


「生きるために殺す、それは仕方がない。それまでは止められない」

「う、うう……」

「だが、力争いで無益な殺し合いは不要だ。それは俺も解る」

「うん……」


 俺はモココの頭に軽く手を乗せた。


「無駄な争いをなくすために、お前が力を示す。それならば協力しようじゃないか」


 モココの顔が晴れやかになる。


「それは羊を食べる獣にとっては殺しは必要な事でやんす。あっしだって食べられるかもしれない。けど、あっしはあっしで、無抵抗で食われるわけにはいかないんでやんすよ」

「そうだな、別に肉食動物を優先する必要はない。狩りができなければ肉食動物だって餓死するかもしれない」

「そうでやんす」

「互いに命を懸けた戦いで得られる事だ。それには口を出さない」

「うん……」

「だからこそ、命を軽んじる行為は認められない」


 モココは自信を持ってうなずいた。


「モココ、お前はこの森の守護者になれ」


 俺はモココの頭に載せた手でなでてやる。


「お前だったら理不尽な死に対してもあらがう事ができるだろう」

「ふむむむ……」


 顔を紅潮させて鼻息が荒くなるモココ。


「その上で、だ。だったらこの狼はどうするね?」

「ふむぅ……あっしは、守護者としてのあっしなら……」

「お前なら?」


 モココは意を決して宣言する。


「肉食動物代表としてこの狼と手を組むでやんす!」

「ほう」


 俺が狼の方を見ると、狼は狼で事の成り行きを見守っていたようで、俺たちの会話に聞き耳を立てていた。


「と、羊は言っているが、お前はどうなんだ?」


 間抜け面をして俺たちを見ていた狼ははっと我に返る。


「オレ様を生かしてくれるというのか……」


 狼の問いにモココがうなずく。


「お前たちを食おうとしていたオレ様を、だぞ」

「そうだよ狼。あっしと手を組んで森を守るんでやんすよ」

「守るって……」

「あっしだけじゃあやっぱり肉食動物には舐められ、いや、食おうとしてくる奴が多過ぎるんでやすからな、肉食動物側にも森を守る奴がいると、なにかと便利なんでやすよ」

「なるほどな……なら」


 狼は立ち上がって喉の奥からうなり声を上げる。


「弱い羊とは共に生きられない、でやんすか?」


 モココはもう怯えた様子を見せない。


「なんならもう一度相手をしてやってもいいんでやすよ」


 モココは頭に手を添えて毛をこすり始める。

 また電撃を食らわせるつもりか。


「いや、オレ様……いや、オレが肉食動物の代表として他の奴らを取りまとめる」

「いいんでやすか?」

「ああ。羊に負けたとあっちゃあ面目も立たないが、それでもあんたの力はオレをしのぐのは確か。このオレ、グレートウルフのグレフルがあんたの下で働く事に、なんら異議はないさ」


 グレフルと名乗った狼は、一声遠吠えを放ったかと思うと、モココの前で伏せの体勢になる。


 森の奥が騒がしくなり、一頭、また一頭と狼が集まり始めた。


「ほう」


 そこにはかなりの数の狼がグレフルと同じように伏せの姿勢を取っている。


「グレフル麾下きかのグレートウルフはモココ様に忠誠を誓おう!」

「アオーン!」

「ワオオーーーン!!」


 グレフルの声に合わせて狼たちが一斉に遠吠えをした。

 それはこの森の中で少なくない勢力としての旗揚げにも取れる事だ。


「ねえゼロ」

「なんだよ」

「これだけの狼がいたらさ、羊娘も勝てなかったんじゃないの?」


 ルシルがぼそりとつぶやく。


「ふぅむ」


 俺は少しだけ肩をすくめた。

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