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弱肉強食での過ごし方

 まあ驚いた。ひ弱な女の子の姿だったモココが、俺よりも大きい狼を電撃の一発で仕留めたのだから。


「ぐ……」


 狼は息絶えはしなかったものの、意識を失う寸前で転がっていた。


「おいモココ」

「な、なんでやすか?」


 慌ててキョロキョロするモココは、自分自身がどうしたらいいのかを考えあぐねているように思える。


「この狼、生殺与奪せいさつよだつはお前に委ねられているが、どうするね?」


 俺はモココに尋ねる。ルシルから見たら俺の顔はかなり意地悪そうに見えただろう。


「え、えっと、もちろんあっしは無駄な殺生はしないでやんすよ!」

「ほう、言い切ったな。とすると……」


 俺は雷にアゴを打ち抜かれて苦しそうに転がっている狼を指さす。


「あれは、あの狼は殺さないって事か? それともあいつは無駄な殺生じゃなく必要な殺しって事になるか?」


 俺の言葉が辺りに響く。

 そう、もちろん俺はまだ生きている狼にも聞こえるように言ったつもりだ。


「ぐ、ぐぐ……」


 当然起き上がる狼。俺の思惑通りに。


「オレ様は……これしきの事で倒れるわけに……」


 狼がしゃべっている途中だが、そこに雷が落ちる。


「もうやめて欲しいでやんすっ!!」


 モココの怒りの雷が巨大狼に落ちた。

 情けない悲鳴を上げて狼がまたくすぶりながら倒れ込む。


「ふぅ……」

「どうしたのゼロ」

「狼をやっつける羊がいるとはな。想像もしていなかったよ」

「あー。確かにねぇ。電撃出せるんだもんねえ、あの羊女」


 ルシルの言い方はともかく、状況分析は真っ当なものだ。


 戦闘で興奮しているモココの肩に手を置く。


「ひぃっ!」

「おいおい、そう驚くなよ」

「あ……わ、解ったでやんす、落ち着くでやんすよ」

「そうだ。落ち着く事はいいな」


 俺はモココの肩に置いた手をそのままに話を続ける。


「あの狼、お前はどうするつもりだモココ」


 親しみを込めながらも俺はモココにとって厳しい質問を送った。

 モココとしては、自分で倒せるのなら倒したいだろう。だからといって外部の力を、言うなれば俺たちの戦闘力を使うというのは選択しにくい事なのかもしれない。

 なぜならそれは自分の力で縄張りを守ったとは言えないからだ。


「あっしは、できれば穏便に済ませたいんでやんす」

「それを相手が納得してくれるかな?」

「うなずくかどうかは判らないんでやんすが、でもあっしは……できたら、羊といえどもあの巨大羊みたいに力で、恐怖で森を治めたくはないんでやすよ」

「いやいやいや、お前は十分に狼を雷でやっつけてやったからな。力で倒したって事だろうが」

「そ、そうでもでやんすね、あっしは……」


 モココはもじもじしながら上目遣いで俺を見る。


「あっしは別に一番でなくてもいいんでやすよ」

「ほう」

「争いのない森になるんだったら、それが一番嬉しいんでやす」


 喜びに満ちた顔でモココは俺たちを見ていた。


「いや待てよモココ」

「はひっ!?」

「肉食動物なら肉は食うだろう?」

「は、はひっ」

「食われる側としたら命懸けだし、食えなくなったとしたら肉食動物も生きてはいけない」

「はひ……」

「お前の言う争いのない森っていうのはさ、実現できる話なのか?」


 俺の問いにモココは固まる。

 答えを見いだせないまま、巨大狼が意識を取り戻そうとするたびに頭をぶん殴って気絶させた。

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