表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

962/1000

侵入者発見せり

 羊人間ワーシープのモココは、刈った自分の毛を森の木々に埋め込んでいく。


「クンクン……」


 毛を木にくっつけた後に匂いを嗅いでいるモココ。


「なにをやっているんだ?」

「ほわぁ~」


 悦に入っているというか、なにか嬉しそうな顔で自分の匂いを嗅いでいた。


「これはでやんすね、あっしがここを通ったっていう情報を広めているんでやす」

「拡散しているのか?」

「へい!」


 明るく返事をしながら、また少し離れた木に毛を埋め込む。


「縄張りを主張しながら、それでいて自分の存在を知らしめていく。力の誇示という点では意味のある事だろう」


 真面目に考えてはみるものの、モココはそんな感覚は持っていないのか、とにかく楽しそうに毛を植え込んでいた。


「ふんむ!?」


 モココの手が止まる。


「どうした?」

「来たでやんす……」


 表情が固まるモココ。

 同時に森の中でガサゴソと音が聞こえる。


「ゼロ、木が倒されているよ」


 俺たちの通った後の道だ。今まさに森の木が倒れてきていた。


「なにかが迫ってきている……」


 俺は剣を抜いて戦闘態勢を取る。


「グルルル……」


 聴き覚えのあるうなり声。


「狼か。だが、異様な気配がする」


 木を倒しながらなにか大きな物が近づいてくる。木々の隙間から見える影からもその大きさが確認できた。


「おいモココ、お前の縄張り争いなんだ、どうするつもりだ?」

「あ、あっしでやんすか!?」


 こういう時にひ弱そうな顔をされると、見た目が女の子なだけあって、俺の質問自体が不適切だったようにも思えてしまう。


「そうだ。お前の匂いを嗅ぎつけて、縄張りを奪いにきたんじゃないのか?」

「そ、そうでやんすかね……」

「そうだろう。あんなに怒気を孕んでいるんだ」


 バキバキと音を立てて木を倒しながら出てきた奴は、俺の背よりも高い狼だった。


「グルル、羊だけではなく人間と……魔族の匂いがしたと思ったが、小さい連中が集まってオレ様に喧嘩を売ろうとしているのか」


 狼だが人の言葉をしゃべる。

 狼人間ワーウルフではなさそうだが、知能は高そうだ。


「でかいな。この間の魔力に潰された狼とはまた違った強さを感じる」

「ほう。貴様、奴を知っていたか。奴は力を求めすぎて道を誤った。オレ様はああはいかんぞ」

「ふむ。だが力の読みは見誤ったんじゃないか? 俺たちを倒せるなんて思っていたら、だがな」

「ぬかせ」


 狼は後脚で立ち上がった状態で俺を見下ろす。


「起き上がったまま腹をさらして戦いになるかな?」

「人間よ、それは貴様がオレ様の相手をすると言う事か?」

「ふっ、さてな。お前が相手するのはこいつなんじゃあないか」


 俺はオロオロしているモココの背中を押した。


「ひゃっ、ひゃいっ!?」

「なにを驚いている。この狼はお前の匂いを追ってきたんだぞ。お前の領土を守るなら、お前が相手をすべきだろうよ」

「へ、へ……」


 巨大な狼の前に飛び出したモココは、狼と俺たちをそれぞれ見ながら泣きそうな顔をしている。


「まあ、やってみる事だな」

「ひ、ひぃ……」


 足をガタガタと震わせながら、それでもモココは狼の正面に立った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ