道ばたの出会い
俺たちが荷馬車を進めていると街道に人影が見えた。
「珍しく人に出会ったな」
俺はルシルと御者台に座っている。シルヴィアは荷台で品物の整理をしながら休んでいた。
「そうだね」
ルシルも久し振りにすれ違う人が気になるところだ。
「定期的に宿場町があるような街道ではないからな。一人旅というのも……」
俺は手綱を引いて馬を止め、その手綱をルシルに手渡す。
「頼む」
「どうしたの、ゼロ!」
俺が荷馬車から飛び降りて歩いている人へと向かっていく。
「ちょっとそこの人、いいかな」
肩を叩く。
「ぅあ……」
俺が呼び止めた奴が顔を上げると、目は白く濁り口の周りには赤い液体がこびりついていた。
「ゼロ向こう、見て!」
道の先、ルシルが示す先には仰向けに横たわっている人が見える。
その周りに広がる血の跡と群がる数人の男たち。
「死霊魔術の怪物、動く死体だったか、こいつ!」
俺の声を聞いたからなのか、うめき声を上げてゾンビたちが寄ってくる。
血に濡れた口を大きく開き手を前に出しながら近づいてくるゾンビたち。口が裂けていたり皮膚が破けていたりと、死体になってから時間が経っていそうなものだった。
俺は聖剣グラディエイトを抜いて初めに声をかけたゾンビの腕を斬り落とす。
「が……」
それでもゾンビは口を大きく開けて近付いてくる。
「それならこれで!」
俺は聖剣グラディエイトをゾンビの頭に突き刺す。
「あ、ぐぁ……」
ゾンビは最後に低く唸ると力が抜けた。
「本能の部分を残しているというのであればやはり頭が弱点みたいだな」
少し固まっている血が剣にへばりつく。普段斬っている相手とは違うようだが、生物以外の敵とも戦った俺にとっては特に気にかける事でもない。
「ゼロ!」
ルシルの叫び声が聞こえて荷馬車の方に振り向く。
そこには数体のゾンビが荷馬車を襲おうとしていた。
「火の矢!」
ルシルが燃える矢の魔法を唱えてゾンビを狙う。
「シルヴィア、カイン、後ろはどうだ!」
「ゼロさん、こちらは大丈夫です!」
シルヴィアはカインと一緒に木の槍を使って荷馬車の後ろに取り付こうとしていたゾンビを撃退する。
「でもゼロ様、この数はとても……」
「そうだな、カインの言う通りだ」
俺は荷馬車に戻ると手綱を取って馬を走らせた。
「このまま突っ切ろう! ルシル援護を頼む!」
「任せて!」
ルシルは前方で荷馬車の邪魔をするゾンビに向けて燃える矢を放つ。
道さえ確保できれば逃げる事はできるだろう。
「ゼロ、倒しても倒してもきりがないよ!」
進行方向にも何十体というゾンビがひしめき合っていた。
「こんなにいるとはな。まったくどこに隠れていたのだか。よしルシル、手綱を頼む」
「ひゃっ、急に渡されても……!」
そう言いながらルシルは手綱を握って馬を操る。
「炎の槍っ!」
俺は前方のゾンビに向けて炎の槍を発射する。一直線に進む炎の塊がゾンビどもを突き抜けていく。
炎で焼き散らしたゾンビどもがいなくなると、荷馬車の通れる幅が確保できた。
「よし、突き進めーっ!」
俺の号令で荷馬車が最高速度で街道をひた走る。
出遅れたゾンビどもは追いつけない速度だ。
「まったくいったいどうなっているんだ……」
だがそれに答えられる者は俺たちの中にはいなかった。
【後書きコーナー】
出ました定番ゾンビ。
とはいえホラーっぽくすると怖いので、モンスターとしてのゾンビにご登場いただくつもりです。