モコモコの中のモコモコ
「ちがう、そうじゃない」
モコモコした奴が口の中のキャベツを飲み込むと、おもむろにそう言った。顔は女の子だが、言葉はおっさんくさい。
「なにが違うだ。うちの野菜食いやがって」
俺はモコモコした奴の肩をつかむ。
肩もモコモコした毛に覆われていて、ふわふわの感触が俺の手に伝わる。
基本的にこいつは前進モコモコの毛に覆われているが、二の腕や太ももなどの一部分だけ人間の素肌が見えていた。
「べ、別にモココはこれが食べたいって訳じゃないんだからな!」
「じゃあなんでまた頬張るんだよ!」
俺が言っているそばからモコモコの奴はキャベツを口に運んでいた。
「ほごご、ふがががご……」
「いいから飲み込んでからしゃべれよ」
俺はこのモコモコした奴が食べ終えるまで待ってやる。
「ぷはっ」
モコモコは大きく息を吐き出すと、あぐらをかいて座ってしまう。
「さあ、煮るなり焼くなり好きにしろい!」
あぐらをかいて腕を組んで、言ったセリフがこれだ。
「なんだ、急に威勢がよくなったというか、覚悟が決まった感じか?」
「べ、別にあっしは食うもんを食った! 腹もくちた! 思い残す事はない!!」
畑の上で座り込んで言い放つ。モコモコしているくせに、度胸は据わっているようだ。
「ねえゼロ、煮て食っても焼いて食ってもいいって言うんだからさ、今日は焼き肉にしようよ」
ルシルがこのモコモコの言葉に乗ったのか、物騒な事を言い始める。
「いやちょっと待てよルシル。流石にこんな奴を食ったら食あたりするだろう?」
「そっか、なんか気持ち悪いもんね」
俺とルシルの会話を聞いて、なんだかとても嫌そうな顔をするモコモコ。
「あっしにはそんな価値もねぇって事ですかい」
「えっと、まあ、そういう訳じゃあないんだが」
「それってあっしが、煮ても焼いても食えない奴って事ですかい!?」
「まあある意味合っているかもしれないがな。いやそうじゃなくてだな」
俺は収穫したばかりのキャベツをひと玉このモコモコに手渡す。
「これだけたくさん採れたんだ。お前にももう一つわけてやるよ」
ポカンとした表情でキャベツを受け取った羊少女をそのままにして、俺は荷車に載せたキャベツを小屋まで運ぼうとする。
「あいや待たれよ!」
モコモコはキャベツを持ったまま立ち上がり、俺たちを呼び止めた。
「なんだ? あと残っているキャベツは種を作るためにそのままにしているんだから、勝手に食うなよ」
「いやさ、そうではなくてだな……しばし待たれよと申しておろうに」
「いちいち面倒な奴だな。で、なんだって言うんだ?」
俺は運ぼうとしていた荷車の持ち手を一旦下ろして、モコモコに耳を傾ける。
「あっしは羊人間のモココ! 一食の恩義は忘れませぬ! しからばあっしもキャベツ作りに手を貸しますぞ!?」
荷車の取っ手をつかみ直して、俺はキャベツを運ぶ。
「畑を荒らさなければ別にどうだっていいからさ、あんまり邪魔しないでくれるかな?」
俺は別にキャベツの一つや二つ食われたからってどうということもない。なんなら食べきれない部分は恵んでやってもいいくらいだ。
「だがな、別に手伝ってくれたとしても、俺は構わないけどな」
俺はそれだけ言い捨てて畑から離れる。
「ゼロ?」
「なんだよ」
「あの羊人間、おっぱいおっきかったよね?」
確かに、モコモコで覆われていたからあまり気にはしていなかったが、思い返してみればそれなりに大きかったような気もした。
「いやいや、お前はそればっかりかよ!?」
「だってさ、あいつゼロに色目を使っているからさ、ちょっとムカッときちゃって」
「焼き餅を焼いてくれる分には嬉しいけど、でもそこまで気にしなくていいんだぜ」
「そう?」
「そうとも」
俺は荷車を引きながら、自分の胸の内を伝える。
荷車の後ろに、なぜか羊人間のモココが付いてきていた。