野菜を食べに来るのは
穀物はまだ茎が伸びて葉が生い茂っている状態だが、水や養分を上手く調整していたからだろうか、太く元気に育ってきた。
その隣の畑では、葉物野菜がたくさんできあがっている。
「思ったより育ったね」
丸々と大きくなったキャベツの収穫して、ルシルはご満悦だ。
「どれどれ、折角だから食べてみようか」
「このままで?」
「そうだよ」
俺はキャベツの葉をむしって水で洗い、そのまま口に運ぶ。
「お、芯に近い所は甘くなっているな」
「ほんとだ。葉っぱの方も甘いけど、味が濃いね」
「確かになあ。芯の方が甘いっていうのは面白いな……どれどれ」
葉っぱ部分を剥いでしまうと、真ん中の白い芯の部分が残った。
俺はその芯だけをかじる。
「おほぅ、これはまた!」
「なになに?」
「果物みたいに甘いな、ここは」
「えっ!? 私も食べてみる!」
ルシルはキャベツを縦に切って芯の部分を出すと、そこにかじりついた。
「うわぁ、本当だ! あっま~い!!」
野菜なのにかなり甘くなっている。これも栄養と日の光を十分に浴びた結果なのかもしれない。
「これは売りに出してもいいくらいだな」
「そうだね、きっといっぱい売れると思うけど……」
「でも、俺たちはなるべく他の人たちとは接触しないようにしているからな」
「うん。だからお金は別にいらないもんね」
「かなり長い事のんびりして、そろそろいいかなって思ったら、たまには出て行ってもいいかもしれないな。この野菜の種だって、ララバイたちにもらってきた物だし」
俺たちが今まで戦闘ばかりしていたから、周りのみんなも気にしてくれて、俺たちだけの暮らしに協力してくれている。
だから俺たちは、なるべく二人だけで暮らせるように、小屋を作り、畑を耕し、獣や魚を捕まえたりしているのだ。
「本当なら村くらいの人数でやらないと大変なのにね」
「余程の専門的な物じゃなければ、俺たちでやっちゃった方が早いからな」
「まあね~」
それは思い上がりでもなく、できる範囲でできる事をやっているだけ。難しい事はなにもやっていない。
「だから彫刻とかは流石にできないけどな~」
「服も、あまり豪華なのは作れないし」
「でもさ、それもそれで、いいと言えばいいんだよな」
「うん。私たちだけだもんね。誰に見られるわけでもないし……きゃっ!?」
シャクシャクとキャベツを食べていたルシルが、小さい悲鳴を上げて止まってしまう。
「どうした!?」
「あっ、あおっ、ぅわおっ……」
狼の遠吠えのような、変な声を上げるルシル。
「なんだいったい……」
「こ、これ……」
ルシルが指で示す先には、青く長く小さくウネウネとした物が。
「青虫か。そりゃあいるよな、うん」
「うんじゃないよ~、ぺっぺっ」
「なにをそんなに……あ、もしかして……」
「うぐぐ……」
ルシルは引き込んだ川の水で口をゆすいでいた。
きっと、口の中に入ってしまったのだろう。
「よしよし、次からはよく洗ってから食べような」
「うん……」
ルシルは少しだけ涙目になっていたが、タオルで顔をぬぐって、少し気を落ち着かせたようだ。
「ここ数日で食べられるだけ残しておいて、あとは食料庫に凍らせて保存しよう。それと、全部は収穫しないでいくつかは残しておこうか」
「うん……次の種を、作るのね?」
まだ少しぐずっているが、それでも気丈にルシルはキャベツの収穫作業を続けている。
「そういう事。だから花が咲いて種ができるまで、何株かは残して……あれ?」
なにか白い大きなモコモコした物が、キャベツ畑でモゴモゴしていた。
大きさは人くらい。白いもこもこの毛皮に覆われていて、しゃがみ込んでいる様子だ。
「な、なんだお前!?」
俺が呼びかけると、その白いモコモコが振り返った。
顔は女の子。髪は白いモコモコで頭の左右からは羊のようなぐるっと巻いた角が生えている。
「ほひゃはふは……」
そいつは口の中をキャベツでいっぱいにしながら、なにやらしゃべっていた。
キャベツを食べに来たのは、青虫だけじゃなかったようだ。