腐葉土作りで栄養満点
すごく強い土の香りが鼻を刺激する。
畑の脇に作った肥料を溜めておく穴を作って、そこにいろいろな物を突っ込んでいたが、それが熱を持って匂いも強くなってきた。
「ねえゼロ、これ無茶苦茶臭いんだけど」
穴の周りは木枠で囲っている。俺が寝っ転がれるくらいの大きさだから、そんなに狭くはない。
「草や木片、枯れ葉とかが主だけど、動物の死骸とかも細かく刻んでばらまいているからな」
「変な湯気が出ているよこれ……」
「発酵しているんだろう。こうやって土の中の虫とかが分解してくれるから、いい肥料ができるんだよ」
「発酵って……腐っているんだよね? なんかアンデッドみたいな臭いがするからさ」
「腐肉だとするとそうなのかもしれないけど……きちんとしたアンデッドは、ユキネみたいに防腐処理をしっかりしているから、肉体の活性化はしていないよな。確か沐浴液とかを使っていたっけ。ほら、火蜥蜴の革鎧を作った時に」
「あ~、そうだったね。野良動く死体とは違うもんね」
エイブモズの町にいるユキネは喰らう者という動く死体の一形態で、沐浴液を使ってその肉体を維持していた。
失礼な話題を口にしながらも、俺たちは腐葉土をほじくり返し、かき混ぜる。
こうする事でいい肥料ができるらしい。腐敗とは違う、土のいい匂いがしてきた。
「ユキネたちみたいな喰らう者は、若々しい肉体を保っていくのに苦労していそうだな」
「そうねえ。若さの秘訣ってなにかしら。沐浴液の中身ってなんだろうね。香辛料とか?」
「保存肉みたいな考え方か……。ちょっと不謹慎かもしれないが、でもミイラとかも水分を抜いてスパイスで防腐するらしいからなあ」
「人間サラミみたいな?」
「……辛辣だなあ」
「でもさ、究極、腐らないで老化もしないなら、それって不老って事よね。不死かはともかく」
思い起こせば、ユキネたちは俺たちと会った時でさえ数百年は生きている、というよりその存在を維持していると言っていた方がいいか。
「俺よりもルシルの方が、長命って事じゃあユキネに近いのかもなあ」
「でもさ、魔族と人間って考えるとゼロとユキネは人間だもん」
「そう言われると、いろいろと違いはあるなあ」
「む~」
自分で言っておきながら、ちょっとルシルが唇を尖らせて不満そうな顔をする。
「どうしたルシル?」
「まあ、ユキネはおっぱい大きかったもんね」
ルシルは自分の胸に手を当てて、うつむいてしまう。
「事実からすると確かになあ。だからって別に俺がどうこうしようと考える訳でもないし、どうでもいい話だと思うぞ」
「そう?」
「そうだよ。俺が気兼ねなく触れるのはルシルの身体だけだしな」
「ちょっ、ゼロ~」
顔を赤くして恥ずかしそうにしているが、まんざら悪い気でもないらしい。照れ笑いを俺に向けてむーむーうなっていた。
「あ、ちょっと動くなよ」
ルシルの鼻先に付いていた土を俺は袖でぬぐってやる。
「……ありがと」
「お、おう」
変に素直な返事をするものだから、俺も少し応えるのに困ってしまった。
「よし、あと少し。肥料の処理が終わったら今日の作業は終わりにして飯にしようぜ」
「うん。まだ日は高いから、川に魚を捕りに行こうよ」
「そうするか」
俺たちは土まみれになりながらも肥料作りを続ける。
横の畑を見れば、葉物野菜がもう収穫時期を迎えていた。