山の幸を探して
久しぶりに晴れ渡る空。かなり長い事雨が降っていたような気がする。
丘の上に建てた小屋は水はけもいいから、それ程水が溜まっているという事はない。
近くの崖から下はすぐ海になっていて、まだ波はかなり荒れているようだ。
「豪雨って程じゃなかったからな、小屋も一応は大丈夫だったけど、結構閉じ込められていたからなにもできなかったな」
「屋根とか壁は補強したけどね」
「そうだなあ。木材も取ってこなくちゃな」
「そろそろ食料も少なくなってきたからね、森に行かないと」
俺たちは身支度を調えて小屋を出た。
「畑はどうなったかな……」
丘を少し降りたところにある畑は、溜め池から水が入らないようにしていて、水があふれる事はなかったようだ。
「いくつか芽は出ているけど、これくらいなら大丈夫みたいね」
「多少雨が続いたくらいなら、まだなんとかなるか。雑草が生えてきたからなあ、草むしりしないと」
「だね。戻ったらやろうか?」
「そうするか」
出がけに畑の様子を見て、どうやら問題無さそうだという事を確認してから森へ向かう。
「今回の目的としては、狩りと木材集めだな」
「それとできれば魔晶石があるといいよね」
「そうだなあ。魔晶石はドラゴンの巣穴でもあれば別だが、採掘するとなると……少し山の方へも行ってみるか」
「落ちているといいねえ」
しゃべりながら俺たちが森に入ると、どうも気配が違うように思えた。
「雨上がりの森って、なんだか気持ちが悪いね」
珍しくルシルが俺の袖をつかむ。
「ルシルもそう感じるか? どうも殺意に満ちているというか……俺に向けたものじゃないだろうから敵感知は発動しないんだが……」
「そうだね、木々がざわめいているっていう感じかな」
「ルシル、そんなスキル持っていたか?」
「ううん、なんとなく、なんとなくそう思うだけだけど……」
俺はルシルの腕をつかんで歩きを止めさせる。
「一応対策を考えておこう。SSSランクスキル発動、円の聖櫃。俺たちを守る壁を作ろう」
俺がスキルを発動させると、虹色の魔力の膜が俺たちを覆うように広がった。
「急な攻撃でもこれでなんとかなるだろうな。魔力を帯びた攻撃というのは余り考えにくいし」
「そうね、ありがとうゼロ」
「いいさ。それじゃあ、木材は帰りに作って持って帰るとして、食料になる獲物を探しに行くか」
「そうだね。その途中で魔晶石が見つかるといいね」
「ついでで見つかるかなあ」
俺たちは森の中、木々をかき分けながら奥へ奥へと向かっていく。
「ふむ……」
「ゼロ」
足下に落ちている塊を見つける。
「動物の、皮。それと骨か」
「猪くらいの大きさはありそうね」
「ふむ、まだそう古くはない。ここ数日というところか」
「ねえゼロ、あっちにもあるよ」
ルシルが少し離れた所に転がっていた別の死骸の所へ行く。
「うわ……」
よく見てみると、辺りに転がる死骸の数々。
「中には熊みたいな物もあるな」
「ハイエナとか狼みたいなのが食い散らかしてたりとかはしないのかなあ」
「それ以上に死骸が多いっていう事か」
まだ肉も付いている死骸があったり、傷口も生々しい奴もあったりする。
「いったいなにが起きているんだ……」
背後から気配。
俺は振り向きざま剣を抜く。
ガキンっ!!
甲高い金属音が背中の方から鳴る。襲ってきた奴の爪が円の聖櫃に弾かれた音だ。
「剣で払うまでもなかったか」
俺たちの周りには殺気立った狼たちが群れをなしてうなり声を上げていた。
「ルシル」
「うん、大丈夫」
ルシルは俺の側に戻ってきていつでもスキルを発動できるように身構える。
「こいつらの爪じゃあ円の聖櫃は突破できない。そこは心配しなくてもいいんだが……」
「野生の動物が私たちを襲うなんて」
「ああ。野生の勘が鈍ったか」
俺は一度剣を鞘に納めて戦闘態勢を取った。
「かかってくるというのなら、相手になるがな」
その戦いは一方的になるはずだ。俺たちは円の聖櫃で守られていて一切の攻撃が通らない。狼たちは文字通り俺たちに歯が立たない。
「身の程を知らん奴らめ」
俺が少し腰を落として身構えると、先頭の狼が俺たちに向かってきた。うなり声を上げ、口を大きく開けて。