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雨漏りと隙間

 今日は雨が降っている。夜半から降り始めた雨がまだ降り続いていた。


「眠いね……ゼロ」

「そうだな。雨対策をしていなかったからなあ」


 木で組んだ小屋は雨漏りでびしょびしょになっている。ベッドで寝るどころではない。


「もっと屋根をしっかり作っておけばよかったか」

「仕方がないよ、ゼロだって工作クラフトスキル鍛えていないんだもん」

「うう……」


 言われてしまうと返す言葉もない俺は、今できる事を考える。


「ただ丸太を組み合わせただけだったから、板を屋根に敷いてみようと思う」

「大丈夫なの? 雨降っているけど」

「でも、このままじゃあ野宿と一緒だし、別に強風が吹いている訳じゃないから大丈夫だろう」

「私もサポートするから、慎重にね」

「ああ」


 俺は外に出て、庭に転がっている丸太を剣で切り裂く。


「板ができれば、なんとか……」


 結構な雨が降っていて、あっという間に服がぐじゅぐじゅになる。


「ルシル風邪引くなよ。俺は温度変化無効があるから雨に濡れようが雪に埋まろうがダメージを負う事はないが」

「そうね、余った毛皮で雨具を作っているから、今の所は平気よ」

「判った。無理はするなよ」

「うん」


 俺は屋根に上がってルシルから板を受け取った。薄く切った木の板は、長く平らな物だ。


「このまま屋根に並べるのもなあ。隙間ができるから……」


 ただ板を置いても雨漏りは止まらない。そうなると隙間を埋めるように板を重ねれば雨漏りにならないのではないか。


「ふむ」


 板をずらして重ねてみるが、ただ重ねただけでは雨が隙間に入っていってしまう。


「困ったな……どうしたものか」


 俺は板を渡してくれるルシルを見る。

 毛皮のマントを羽織ったルシルは、少しも濡れていないようだ。


「なあルシル、どうしてその毛皮を羽織るだけで濡れないんだ?」

「さあ、よく判らないけど」


 ルシルのマントをよく見ると、毛が下から生えていて、その上に覆い被さるような毛が生えている。

 下の毛の隙間を埋めるように上の毛がかぶさり、またその上を毛が覆っている状態。


「おお、水が落ちても毛の隙間に入る事なく、下の毛が押さえてくれる……そうか!」


 俺は板をつかむと、屋根の端に付けた。


「ゼロ、なんでそんな端っこに板を張るの? 雨漏りしているのは真ん中の方だよ」

「いいんだよこれで」


 俺は貼り付けたいたの上に板を少しずらして打ちつける。

 上に重ねた板を少しだけずらす事で、毛皮のように雨が下へ伝わる前に下の板が受け止めてくれるのだ。


「よし、これなら雨が降っても板の重ねたままに伝わって行って、軒から下に落ちていくはず。ルシル! 小屋の中で雨漏りの様子を見てくれ!」

「いいけど、別に雨漏りしていてもいいから、ゼロも早く降りてきたらいいのに」

「平気だ。雨漏りを見てくれ」

「うん……」


 ルシルは渋々小屋には行っていった。

 俺が板を重ねて屋根を作る。重ねていけば行くほど、屋根の隙間が埋まっていく。


「どうだルシル!?」


 俺は小屋の中に入ったルシルに聞いてみる。

 雨の降っている外と小屋の中だ。声を張り上げて会話をしなくてはならない。


「は……すごい……」

「どうかな!?」

「雨は漏っていないよゼロ! 屋根の外からの光も入ってこないし、隙間が埋まっているよ!」

「そうか!」


 ただ隙間を埋めただけではなく、雨水が中に入らないようにできているはずだ。


「いいねゼロ、雨が入ってこないよ!」

「判った、ありがとう。屋根から降りるよ!」

「うん、気を付けてね!」


 俺は屋根から飛び降りる。


「とうっ!」


 ベシャッ!!


 俺が着地した場所は水たまりになっていた。

 しかも畑を耕すために作った土が水を吸ってヌルヌルになっているから、そこに降り立った俺は足を滑らせて尻餅をついてしまう。


「大丈夫?」


 ルシルが転んだ俺を見て笑いそうになっているが、どうにかこらえているようだ。


「別にいいぞ、笑ってくれても」

「ふふっ、いいのよ。笑うよりも頑張ってくれたゼロに感謝しているんだから!」


 小屋から飛びだしたルシルが、泥の上に座り込んでいる俺に抱きついてきた。


「なにやってんだよ、お前まで汚れちまうだろうが!」

「いいっていいって。沼に足を取られたら、私が引き上げてあげるからさ」


 泥だらけになったルシルが泥だらけの俺の手を引く。


「ね?」


 俺を引き上げたルシルは、雨の中両手を広げて天を仰ぐ。


「このまま雨で汚れを流しちゃえばいいよね」

「う~ん、そうかもな」


 俺もルシルと一緒に、両腕を広げた。


 ブシャァァァ!!


「ぶはっ! なにをっ……」


 ルシルが俺に向かって水流のスキルを発動させる。

 足腰を鍛えている俺にとっては、これくらいの水圧では倒れないが……。


「ぶばばばば……くっ、こんな事をしてなにになるっていうんだ、ルシル!」


 雨の中、ルシルの放つ海神の奔流(ウォーターバースト)にこらえている。


「いいでしょ?」

「なにがだよ……って、もしかして」


 ルシルは小首をかしげていた。


「俺の身体に付いた泥を跳ね飛ばしてくれたのか?」


 俺の問いに、ルシルは小悪魔的な笑みを見せる。


「そうね、そう思っていると平和でいられると思うわ」

「なんだか裏がありそうだなあ」

「そんな事ないよ。私はゼロに内側も裏側も全部見せちゃっているから」

「お、そ、そうか」


 確かにルシルが言うように、俺の身体から一切の泥が跳ね飛ばされていた。

 その分、着ている物は全てぐじゅぐじゅに濡れてしまっていたが。


「さあ服を脱いでゼロ、お湯を沸かすから身体を拭きましょ」

「俺はいいから、ルシルが先に綺麗にしろよ」

「う~ん……そうね」


 ルシルは小屋の中に入ると、着ている物を脱ぎ始めた。


「囲炉裏でお湯を沸かしているから、それを使うといいよ」


 裸になったルシルは俺の目を気にする事なく身体を洗う。


「俺は折角綺麗にしてくれたから、服が乾けば十分だ」


 火の点いている囲炉裏のそばに俺はあぐらをかいて座る。

 身体を綺麗にしたルシルは、裸の上に毛皮を巻いただけの姿になって、俺の着ている上着を部屋に干して乾かし始めた。


 小屋の中に俺たちの服が並んで吊るされる。

 だが、もう雨漏りはしていなかった。

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