畑を作るにはなにからしたらいいのか
流石に思った。剣では農作業には向かないと。
「ゼロ、地面を掘るのに剣で爆発させるの、いい加減に辞めようよ」
土をかぶったルシルが俺の方を見て立っている。
俺はスキルを使って大地をほじくり返していたのだが、どうもその勢いが強すぎて辺りに土をまき散らして終わってしまう。
「どうしよう、こんな事考えていなかったからなあ……」
「じゃあさ、爆破させないで剣の先で地面を……そうね、筋を付けるようになでてみたら?」
「筋を付ける?」
「そうよ、剣で、ズルズル~って」
「う~ん……」
俺はルシルの言うように、剣先を引きずって地面を掘ってみる。
「おお、なんだか少しだけ土がフワフワしたぞ」
「でしょ?」
だが、ルシルの顔は晴れない。
「どうしたんだよ、これを繰り返せば大きな穴を開けないで畑が作れるんじゃないか?」
「そうだけど……でも、この筋……」
「うん?」
「何本通すつもり?」
「う~ん……」
確かに、何本も爪が分かれている農具で土を引っ掻いた方が簡単に土を掘り返せる。
「農具、作るかなあ」
「そうねえ……工作でできないかしら?」
「どういう物かはなんとなく解るけど……」
俺は畑の端に立って、剣を構えた。
「どうするの?」
「今日中に種を蒔いちまおうと思ってさ……」
「私には?」
「うぇっ!? おほんっ!! Sランクスキル発動、剣撃波! 大地を切り刻めっ!!」
俺の放つ衝撃波で何本も筋を作って地面がえぐられる。
「すごい……こんなに畑の畝ができるなんて!」
畑にしようとしている土地の端から次々と剣を振り下ろすと、それに合わせて地面が丁度いいようにえぐられていく。
あっという間に土はほじくり返され、適度な溝が掘られていた。
「これならすぐにでも種蒔きができるね!」
「だな!」
ルシルが途中でなにか言った事は気にしない。
俺たちはいろいろな種を取り出すと、畑に蒔いていった。
「ここは麦、ここはキャベツにしようね」
「こっちは少し深めに掘ったから、芋を植えよう」
「いっぱい育つといいねえ」
「そうだな。じゃあルシル、土を被せたら水を頼む」
「うん」
ルシルはスキルで水を作りだし、畑に行き渡らせていく。
「でもさゼロ、毎回水を作るの大変だよ……」
「確かにな。だからさ」
俺はルシルを手招きして畑から離れた場所へと連れて行った。
「ほら」
「わぁ!!」
俺が見せたのは、小さいながらも掘り進めた用水路。
「これ、上流の川から?」
「ああ。水を引けるようにした」
海に注ぎ込んでいる川の上流から続くよう、溝を掘ってここまでつなげてきた。
「だったら今水を出さなくてもよくない?」
「悪い、まだ畑まではもうちょっとかかるんだよ。畑を作るの、何日か後だと思っていたから、それに間に合えばいいかなって思って」
「そうなんだ……でも、ここまで私に内緒でよく掘ってたね」
「ま、まあな」
俺は狩りに行くついでだったり、木材を持ってくるついでに、この用水路を作っていたのだ。
ついでだったから、あんまり時間がかけられなくて、まだ途中までだったのだが。
「そんな事、私に言ってくれればよかったのに」
「ま、まあな。俺だけでもちゃちゃっとやっちゃおうって思ってさ」
「見栄を張らなくてもいいの!」
ルシルは俺の背中を思いっきりひっぱたく。そのせいで俺の心臓が飛び出してしまいそうになったが、どうにかこらえてみせた。
「じゃあさ、これから一緒に用水路掘ろうよ」
「いいのか?」
「私も泥だらけだし、今さらでしょ。汚れるもなにもないから」
「そっか」
それから俺たちは用水路を掘るのに一日をかける。
掘って筋を作り、火炎のスキルで表面を焼き固めた。こうすることで護岸が崩れにくくなるし、水も外に出にくくなる。
「こんなの、ずっと一人でやってたんだ……」
ルシルは肩で息をしながら作業を進めていく。
「最後に手伝ってもらっちゃって、なんかかっこ悪いな」
土を突き固めている俺にルシルが肘で小突いてくる。
「これだけ一人で頑張ってくれたんだもん、かっこ悪い事なんてないよ」
「そうか?」
「そうよ。それより早く終わらせて、水浴びしたいな~」
ルシルが俺を励ましてくれて、また作業に戻った。
「なあルシル」
「どうしたの?」
俺は自分で爆発させた穴を指さす。
「これ、溜め池に使えるかな?」
「あ、それいいかもね!」
川からの水は冷たい。それに流量も一定ではない。
それを俺は知っていたから、水を溜めておく場所をどこかに用意しなくてはと思っていた。
「そうだね、ゼロの作った穴が役に立つかも」
「だ、だろう?」
俺が地面を爆発させて作った穴が、丁度水を溜めるのに使えた。
そこまで用水路を引き込んで、境目に堰を作る。
「爆発させたのも、よかったみたいね」
「そうだな」
「じゃあ、上流の堰を外すぞ」
「うん、やってみよう!」
俺たちは用水路の上流へ行き、川との接合点に行く。
そこには工事中の用水路に水が流れてこないよう、俺があらかじめ堰を設けていた。
「外すぞ」
「うん」
俺はゆっくりと堰をあげていく。
堰の隙間からゆっくりと水が流れていき、俺たちの掘った用水路に水が流れていった。
「わぁ、水! どんどん流れていくよ!」
「そうだな、よし追っていこう!」
「うん!」
俺たちは初めて見ずが流れる用水路を見て、嬉しい気持ちを抑えずに水の流れを追っていく。
「溜め池に水が溜まっていくね」
「ああ、これで畑にスキルで水撒きしなくて済むな」
「うん!」
用水路と溜め池を作った俺たちは、落ちかけた日の中、植えた種が芽吹くのを楽しみにしていた。