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目覚めのひとときとおはようの挨拶

 柔らかい布団で目覚める。俺たちが山で捕まえた巨大な羊で作った布団だ。今までの木の板とは大違い。快適な睡眠を俺たちに提供してくれていた。


「ふわぁ……」


 起き抜けの俺はそんなに元気じゃない。いきなり勢いづいて起きるほど寝起きはよくないからだ。

 襲われでもしたら飛び起きるが、今は心身共に安らいで目覚める事ができる。


 こんなに平和で幸せな日々が過ごせるなんて、少し前の俺は考えもしなかった。


「ねえ」


 ルシルが隣で俺の顔を見ている。甘い吐息が俺の鼻をくすぐった。

 横になった姿は髪も乱れていて、俺以外には絶対見せないルシルの一面がここにある。


 俺よりも早く目が覚めたようだが、それでも俺の事をじっと見ていたんだろう。

 そんなルシルの髪を、俺が優しく指でといてやる。


「なんだよ……ルシル、起きるの早いな」

「そう? なんとなく目が覚めちゃって」


 少しにやけた顔でルシルが応えた。

 ずっと一緒に布団へ入っているのに、ふんわりとルシルの匂いが感じられる。


「ゼロって寝起き、ゆっくりだよね」

「そうか? いきなり飛び起きて剣の素振りをする方がいいか?」

「そんな事ないけどさ。ゆっくりだからこうして見ていられるし」

「お、おう……」


 そう言われるとちょっと恥ずかしくなるな。

 寝ている間、いびきをかいたり寝言で叫んだり、鼻をほじったりおならをしたりってそういう姿を見られていないか、少し気になった。


「いいんだよ、それも含めて全部ゼロの事……好きだから」

「俺の考えを思念伝達テレパスで読んだのか?」

「ううん、でもなんとなく、恥ずかしい事を考えているんだろうなって、そう思っただけ」


 ルシルは大地母神のような温かい笑みを俺に向ける。

 全てを包み込むような、大きな母なる愛。


「ゼロがおじいさんになって、一人で排泄ができなくなっても、私が後始末をしてあげるからね」

「そ、そんな事には、俺は……」

「でも、私は魔族の、いえ、神の身体を受け継いでいるからあと何百年か生きるけど、ゼロは人間の身体だもの。長くても百年生きられるかどうか……」


 言われてみれば確かにそうだ。

 俺は百歳まで生きていれば長生きした方だが、ルシルはこれから何百年生きるのか。俺たちが出会う頃、そう、ルシルが魔王の頃でさえ三百年は生きていたんだ。


「ああ……そうだな。ルシル、戦いでくたばる事でもなければ、俺の最期を看取って欲しい」


 ルシルは横になりながら、小さくうなずく。


「そうね、ゼロは戦闘じゃあ負けないでしょうから……いいわ。ゼロの生涯、私がこれから見守ってあげるから」


 ぐりゅりゅりゅりゅ……。


 俺の腹が盛大に鳴る。


「数十年後の事よりも、今朝の飯の事を考えようか」

「そうね、毛皮のお陰でぐっすり寝られたわ。下処理はしたけど、あの羊肉、保存できるように加工しておかなくちゃね」

「そうだな、飯を食ったら早速始めるか」


 俺は羊の毛で作った布団をはねのけてベッドから降りた。ルシルも服を着ながら起き上がる。


「今日はどうする?」


 ルシルは身なりを整えながら乱れた布団を直していた。


「そうだなあ、そろそろ畑を作ろうか。木の実や海藻だけじゃあ味気ないしな」

「いいわね、水を引くか井戸を掘るか、大変そうだけど……私、パン食べたいなあ」

「それは麦を収穫しなくちゃならないからな、ちょっと先になるけど」

「種はあったよね?」

「ああ、ララバイたちから何種類か穀物や野菜の種はもらってきた」


 俺は壁に掛かっていた麻袋に手を伸ばす。


 そこへルシルが小走りによってきて、俺のそばに寄る。


「おはよ、ゼロ」


 ルシルの柔らかい唇が俺の頬に触れた。

 俺は麻袋に手を伸ばしたまま、ルシルに向き合って唇を重ねる。


「おはよう、ルシル」


 日はまだ登り始めたばかりだ。

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