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死して屍拾わず放置

「じゃあ、行ってきます!」


 早朝。シルヴィアが村に向かって挨拶をする。

 俺たちは誰に見送られる事もなくまだ日の光が山に隠れている間に村を出た。


「ねえゼロ、やっぱり昼間に出たらよかったんじゃないの?」


 ルシルが眠そうな目をこする。カインは荷馬車の中で毛布にくるまって寝ていた。


「今日は少しでも距離を稼ぎたいと思ってね。地図を見ると山越えが大変そうだったからな」

「ふ~ん。あ、ほら畑。少し緑色が見えてきたね。芽が出たのかも!」

「おお本当だ。よかったなあ俺たちのやり方が少しは役に立てば」

「そうだね~。塩っ気が多くても作物が育つんだっていう事になれば、食事も少しは豊かになるよね」

「そうだな」


 荷馬車に揺られながら交易品となる岩塩の入った樽を見た。

 軽く三つ。ほとんど無料と言えるような安価で引き取った岩塩だ。商売ができるならいい資金になる。


「おっと」


 村から出てそれなりに進んだところで荷馬車が大きく揺れる。


「どうした、道が悪いのか」


 俺は幌の中から出てシルヴィアのいる御者台に移動してシルヴィアの隣に座った。


「あれをゼロさん」


 シルヴィアが指さす先には、犬らしい獣の姿。


「ちょっと追い払ってくる」

「はい、気をつけて」


 俺は荷馬車から降りると剣を抜いて犬に近付く。


「おや」


 犬に生気がない。こちらをにらんでうなるでもなく、舌を出して息を荒立てるでもなく、ただそこにいた。


「しっしっ、ほら道を空けろ」


 剣で追い払おうとして犬に触れないように剣を振る。


「ゼロさんいいですよ、荷馬車の方で避けますから」

「そうか、道が狭いから気をつけてな」


 俺は犬を避けながらも荷馬車の通れる場所を確保した。


「ウガフゥ……」


 犬が変な鳴き声で近付いてくる。


「おいおい何だというのだ」


 近くで見ると犬は頬がこけ、至る所で毛が抜けて地肌が見えていた。

 場所によっては傷も見えるがそこからは血が出ておらず乾いて埃がついている。


「これは……」

「ゼロ!」


 ルシルの声と同時に俺の剣が犬の胴を真っ二つに叩き割る。


「大丈夫ですかゼロさん!」

「シルヴィア、見えるか」


 俺が剣で犬の切り口を開いてみせた。


「血が……出ていない?」

「そうだ。この犬はもう死んでいた(・・・・・)

「でも、動いていましたよ……」

「シルヴィアさん、これは死霊魔術ネクロマンシーの術だと思う」


 ルシルがシルヴィアに説明を始める。


「ネクロマンシー?」

「そう、死霊魔術ネクロマンシー。死体に霊魂を宿らせるとか、本能の部分だけを残した死者に近い怪物とかいろいろ技法はあるけれど、これは本能だけ残したやつみたいね」

「ルシルちゃん詳しいのね」

「まあ伊達に魔王はやってないから。ついでに言うと、霊魂を入れるやり方だと精霊や低級霊の念波が出るものだけれど、この犬には犬自身の思念以外は感じられなかったのよ」


 それでもまだ疑問は尽きない。


「だいたいどうしてこんな街道のど真ん中に死んだ犬が転がっていたんだ」


 俺が胴を真っ二つにしたせいで立ち上がる事はもうできないだろうが、それでも食らい付いてこうようともがいている。もはや血も固まって動きが制限されるというのに。

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