寝具はうたう
俺たちは身支度を調え、軽く食事を済ませてからそれぞれの作業を始めた。
「ベッドなあ……小屋を建てた時に使った木材がまだまだあるからな、これを使えばいいか。前に棚を作ったりもしたし、同じような要領で……」
俺は切り出した木材を使ってベッドを作り始める。
力作業の上に精密な処理が求められる。
剣を使って大雑把に大きさを揃えて、細かいところは剣に注入した魔力で薄く削っていく。
小さい穴を剣先で開けて、そこに板を通したりして組み立てていった。
「どう、出来具合は」
ルシルが俺の様子を見て聞いてくる。
「木を組むくらいでも結構丈夫にできたかな。支えるための足を多めに付けたからな、安定性はたいしたものだぞ」
足は長めに作っておいたから、このままだと俺の胸くらいの高さにベッドの床板がある状態。
「ちょっと高くない? それに足の高さがバラバラだから、ガタガタいっているよ」
「それは想定内だ。ちょっと見てなよ」
俺はベッドの脇に立って剣を抜く。
「なにるするの?」
「まあ見てな。Sランクスキル発動、剣撃波! ベッドの足を……斬り割けっ!」
俺の放った衝撃波が地面と平行に放たれ、ベッドの足を一斉に切り落とした。
「切られた分だけ足が短くなって……丁度私たちが座るのにいい高さになった!」
「一遍に切ったから高さが揃っていなかったところも……」
「本当だ、揃ってる! ガタガタいわないよ!」
俺は剣を鞘に納めて出来栄えを確認する。
「うん、上手く行ったな。よし、これを小屋に入れるから」
「判った。私、座ったままでいい?」
ルシルは組み上がったベッドの上に座ったまま俺の方を見てニコニコしていた。
「そうだなあ、耐久試験にもなるから、丁度いいか」
俺はルシルごとベッドを持ち上げ、ゆっくりと小屋の中に持っていく。
「よし、持っているところ含めて荷重が偏っても大丈夫そうだな。頑丈にできて、うん、俺もなかなかじゃないか。我ながら上出来」
そろそろ日も傾いてきた。今日中に間に合って少しはほっとしている俺がいた。
「じゃあこれ、使ってよ」
ルシルが持ってきたのは一組の大きな布団だ。
「できたんだ?」
「うん。でも、いい獣の皮がなかったから、ワラを袋にいっぱい詰めたやつだけど」
「そっか。俺は温度変化無効だから熱いの寒いのは関係ないけど、ルシルはあったかいのがあるといいな」
「そうなんだよね。今度狩りに行った時、長い毛の動物を探してみるよ。そうしたらもっとフカフカの布団ができると思うからさ」
「一緒に狩りに行こうかね」
「うん、また今度行こうよ」
俺たちは夕方の食事を済ませ、狩りの支度をして寝る事にする。
もう日はとっぷりと暮れていた。
「よっと」
俺は新しく作ったベッドに腰掛ける。
木の組み立てたベッドだから、俺の体重がかかると組み合わせの部分で少し音が出た。
「このしなり具合ときしむ音。いかにも手作りって感じでいいね」
ルシルも俺の隣に座ると、同じように小さく木のきしむ音が聞こえる。
「なんだか木がおしゃべり……ううん、歌っているみたいね」
「寝具が歌う、か。面白い事を言うなあ」
「多少揺れても大丈夫だよね?」
「ああ。俺がきっちり組んだんだ。ちょっとやそっとじゃ壊れないさ」
俺が腰を浮かせて跳ねてみても、ベッドは十分に耐えてくれた。
「本当だね。だったらちょっと激しい寝返りをうっても平気そうだね」
「ははっ、寝返りで激しいって、どれだけ寝相が悪いんだよ」
「そう? 寝るだけじゃない寝る時もあるでしょ」
「寝る、寝る……? どういう事だ」
「えへへ~、睡眠じゃない方」
ルシルは上目遣いで俺の顔を覗き込む。
熱はないのに頬が赤らんで、少し息も荒くなっていた。
「寝ない方の寝る、か。そういう事な」
「えへへ」
ルシルが寝る時は服を脱いでしまう。
ベッドの脇に、二組の服が重なる。
ルシルが言ったようにベッドのきしむ音が歌のように聞こえて、今日はちょっといい気分な寝入りになりそうだ。
【後書きコーナー】
Sing a song
それだけ。