裸で寝るのは仕方がないとして
流石にまずい。家があるのに二日続けて床でごろ寝。
「あいたたた……ルシルおはよう……」
「う……ん、おはようゼロ」
「厚手のマントを毛布代わりにしているけど……身体がバッキバキだよ」
俺は布団代わりに掛けているマントから抜け出す。
考えてみれば寝間着なんていうのも用意していなかったから普段着のまま寝ていた。
「快適な眠り……かぁ」
俺の横でルシルがモゾモゾと動いている。
「それにしてもルシルは寝る時裸で寒くないのか?」
「うん、別に……。それが普通だからね」
「そうなんだ……」
二人だけだからあまり気にしないが、ルシルは寝る時に着ている物を脱いでしまう。そのまま朝を迎えるんだが。
「どうしたの? 私の裸なんて見飽きたと思うけど」
「見飽きてはいないよ、見慣れてはいるけどさ」
「あはは、そっか。そうだよねえ」
ルシルは目をこすりながら起き上がる。当然何も着ていないから裸のままだ。
バイラマの身体をそのまま使っているのだから、大人の女性らしい身体付きではあるのだが、今まで見てきたルシルも同じ素材だと思うと、不思議な感覚がある。
元々俺がルシルを初めて見たのがルシルが魔王の頃。
その時のルシルは、もう三百年を超えている魔族の長で、見た目は大人といっても若い女性の姿だった。
そして俺がルシルを討伐して魂をアリアに移したのが、俺が王国を解雇になって冒険をしている間のルシル。身体はまだ子供の姿で、女性というよりは少女のそれだった。
バイラマを倒してからは、ルシルの魂をバイラマの器に移し、アリアは自分の身体に戻ってきた。
今はそんな状況だから、俺の目の前にいるルシルは、俺よりも少し背は低いが大人っぽい女性の身体付きの姿になっている。
今思えばそれはバイラマの、この世界を創った者の一人であった奴の生き写しだったから、どの身体も成長度合いは違うにしても、同じ姿という事なのだろうが。
「遺伝子情報が同じとはいえ、しっかり女の身体になったんだなあ」
「ゼロもそういう目で見るんだねえ。えへへ、いやらしいなあ」
なぜかルシルは恥ずかしさというよりは嬉しそうな顔で照れている。
「さてと、支度をしたらまずは今日、寝具を作ろうと思ってな」
俺はルシルの髪を優しくなでてやった。
「寝具? ベッドを作るの?」
目を閉じながらルシルが質問する。
「そう。ベッドだな。あと布団。床だと硬いし、身体もあちこちが痛いからなあ」
「うーん、私はあんまり気にしていなかったけど、確かに宿とかならベッドの方がぐっすり寝られるかも」
「少なくとももう少し、柔らかい布団が欲しいんだよな」
「そっか。なら私が布団を作るから、ゼロはベッドを作ってよ」
「ああ。工作を使えば木からベッドの枠を作るくらいできそうな気がする」
「うん、頑張ってね」
ルシルは近くに転がっていた服を着ると、床に敷いていたマントを壁に掛けた。
俺も乱れた服を整えて、食事の支度に取りかかる。
「今日は燻製肉を湯で戻してスープを作ろう。塩っ気は海の水を煮詰めた奴を使って、海藻も一緒に煮てみよう」
「うん、いい匂いがするね。わぁ!」
ルシルは湯の中に入れた海藻が、茶色から鮮やかな緑色に変わる所を見て楽しそうに喜んでいた。
「具だくさんスープだから、少しは腹持ちするかな」
できたスープを器によそって、朝食を始める。
さあ、今日は眠りやすい場所を作る、そのための寝具作りだ。
俺たちは食べながらああでもないこうでもないと話に花を咲かせていた。