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食べ物の長期保存を考えて

 朝が来た。木を組んだだけの荒い小屋はあちらこちらから日の光が差し込んでくる。


「おはよ、ゼロ」

「起きたか。おはよう」


 俺の隣で目をこすりながら俺の顔を見ているルシル。上体を起こした俺は、ルシルの頬に優しく触れる。


「ぐっすり寝ちゃった」

「そっか、それはよかった。宮殿でもなければフカフカのベッドも無いけど」

「隣にいるから」

「ああ」


 俺たちはマントにくるまって寝ていたから野宿と変わらない。形だけ小屋の中にいたという程度だ。


 今にもまた寝てしまいそうなトロンとしたルシルの顔は、差し込んでくる光に照らされて木漏れ日のように柔らかく輝いて見えた。


「なにか食べるか……」


 俺は昨日の夜凍らせておいた魚介類を見る。


「氷は溶けているけど……中はどうかな」


 鼻をヒクヒクさせて匂いを嗅いでみた。


「う……あれ? 結構……」

「どう?」


 ルシルも気になったのか起き上がって服を身体に巻いて近付いてくる。


「あー、これは痛んじゃったね」

「ちょっと酸っぱい匂いがするよな」

「うん。夜結構あったかかったから」

「そうなんだ」


 俺は温度変化無効のスキルが常時発動しているから、寒暖の差も感じられない。

 戦闘にはかなり役立つんだが、こうした日常生活には適さないスキルだ。


 俺は指先で魚をつまんで、かごに集める。貝とかも同じだ。


「どうしようかゼロ」

「そうだなあ、これはもう仕方がないとして、昨日森に行った時に採ってきた木の実を食べるかな」

「そうね、その後にまた狩りをしよう。今度はゼロも一緒に行く?」

「ああ。でもその前にやってみたい事があってさ」

「なに?」

「まあ食べてからにしようか」

「うん」


 俺たちは簡単な食事を済ませると、身支度を始めた。


「前さ、燻製を作ったよな」

「うんうん、やったねえ。あれはよかったよ」


 木で作った箱の中に食べ物を吊るして、下で細かくした木片でいぶす。火が点かないようにするところが難しかった。


「あれをもう一度やってみようかと思ってさ」

「木材ならゼロがいっぱい持ってきてくれたから、いいかもね」

「ああ。それと、海辺の集落でよく見た、魚を干すやつ。あれもやってみたいな」

「あー、あのお魚開いて外で干しているの? 網の上とかで」

「そうそう、それ」

「へぇ、いいね。網だったら……そうね、どうする?」


 見た事はあるけれど自分で作った事はないからな。


工作クラフトのスキルっていっても、知らない道具を作れる訳じゃないからなあ。まあ、いろいろ考えてやってみるか」

「うん。紐とか繊維で編み込んで作るとかならできるのかな」

「そうだなあ。紐ってどうやって作るか……」

「うーん、木の皮を細く裂いて、指でこう……よってみたら……ほら、糸っぽくなるよ」

「ほぉ、なるほど。木の皮ならいっぱいあるし、細い皮がいっぱいできたら網も作れるかも」

「うんうん」


 木材として運んできた木を使って木枠を作り、皮を使って網を作る。


 二人で素材を組み合わせながら、干し網を組み立てていった。


「お、結構形になったかな?」

「そうだねえ、まあ物は置けるかな」


 形はいびつだが、斜めにした干し台ができあがる。


「できたな」

「できたねー」


 できあがった干し台を見て、自然と笑みがこぼれた。


「それと、床下をちょっと掘ろうかって思ってさ」

「床を掘ってどうするの?」

「洞窟に入った時、ひんやりするって言うよね。俺はよく判らないけど」

「うん、涼しいっていうか、ひやっとするよ」

「それならずっと涼しくできるならさ、暑い日でも食べ物が傷まないで済むかと思ってさ」

「ああ、氷室みたいなやつね」

「そう……なのかな?」

「うん、地下の貯蔵庫、いいね。それやろうよ」

「そっか、よかった」


 本当だったら穴を掘ってから小屋を建てるべきなんだろうが、俺は今ある小屋を改造していく。


 床の板を切り取って穴を作り、人が通れるくらいの大きさに広げる。

 地面を掘って少し広めの穴にして、小屋との行き来は木で作ったハシゴを使う。


「うわあ、結構早くできたね」

「そうだな、まだ日は高いか」


 貯蔵庫は小屋の床が抜けないように柱を何本も立てて支えている。

 壁には木の板を張り巡らせて、湿気から守るようにした。これはルシルが教えてくれたやり方だ。


「岩壁がそのままの方が、ひんやりするんだけどね」

「そうなのか?」


 俺にはよく判らないからな、ここはルシルの考えに任せよう。


 こうして俺たちは食べる物をどうやって保管するか、それで一日を費やした。


 早速捕ってきた魚をさばいて天日干しにしてみたり、貝を燻製にしてみたり。

 数時間だが干していた魚は表面が乾燥して、少し身が締まっているようだ。指で触れても生の頃とは違ってベタベタしない。

 ルシルは燻製機から貝を取りだしている。これも上手く行っているようだ。


「あ」


 干していた魚を回収している時、俺は思い出してしまった。


「どうしたのゼロ」


 俺の声にルシルが反応する。


「ベッド……」

「あ……」


 どうやら今夜も野宿に近い睡眠になりそうだった。

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