建材探して小屋建てて
場所は決めた。俺たちの暮らす場所を。
小高い丘の上なら風も気持ちがいいし、近くの海から来る波もかぶらないで済む。海に注いでいる川は少し塩気があるものの、上流に行けば真水が手に入る。そのそばには森も広がっていて、山菜や獣も身近なところにある状態。
「この丘に小屋を建てて、その周りを柵で囲って」
「柵の中は菜園を作ろうよ。山菜だけだと面白味がないからさ」
「そうだな。朝取れの野菜なんていいかもな」
「庭の周りには花も植えたいなあ」
「徐々に作っていこうよ。まずは今夜寝る場所を作らないと」
「だね~」
夢は膨らむ。新しい生活を考えるとやりたい事が次々と出てくる。
俺たちは大きめの岩を見つけて荷物を脇に置く。
「家の材料を取ってくるか」
「うん、よろしくね。私は晩ご飯用に海でなにか捕まえてくる」
「ああ、そっちは任せたよルシル」
「ゼロも頼むね」
ルシルは海へ獲物捕りに、俺は森へ健在探しに。
「まずは木だろうな。俺の工作スキルで造れる物なんかたかが知れているからなあ」
俺は日が暮れないうちにと急いで森へ行った。
「本当ならもっと時間をかけないと行けないんだろうけど」
そうつぶやきながら、俺は森に入ると剣を抜いて深呼吸する。
「Sランクスキル発動、剣撃波! 丁度いい太さの木を持ち運びやすいように」
俺が剣を一振りすると、辺りの木が一気に切り倒された。
「十、十一、十二……十二本か」
ただ切っただけではなく、枝を打ち払って細くなっている先端は切り落とす。適度な太さの木材にして小屋を建てるのに使う。
俺は切り倒した木を三本揃え、氷結の指で凍らせてつなぎ止める。
その上に残りの木を載せて、また氷でくっつけた。
「これで持ち運びは簡単になったな」
俺はソリのようにした木を引きずって丘の上へ持っていく。
ルシルはまだ戻ってきていないようだ。
「何本くらいあったら家が建てられるかな」
部屋の数、間取り。玄関をどこにして、台所はどこにしよう。煮炊きをするかまどは壁に近いと燃えてしまうだろうから、少し隙間を空けて造らないと。
「そのためにも木材はたくさん用意しないと」
俺は何往復もして、小屋を建てるのに必要なだけの木を切り倒してきた。
「これを乾燥させたりするんだろうなあ。火を付けちゃうと燃えちゃうし」
持ってきた木は氷を溶かす程度には温めて、広い場所へ積み上げておく。
小屋を建てる場所には土台となる杭を打って、高さを揃える事で床を置けるようにした。
「壁は互い違いに組み合わせて行けばできるからな……」
丸太を組み合わせて壁を造っていく。工作で木を削って組み上げていけば、壁くらいはなんとかなる。
「あ、ゼロ。もう建て始めているんだ」
ルシルが海から上がってやってきた。
手には革袋を提げていて、その中ではなにかがうごめいている。
「いっぱい捕れたか?」
「うん。大きな魚と、あとは貝が少し。食べられるかは判らないけど、海藻も採ってきたよ」
「そっか。俺の方も今小屋の壁ができたところだよ」
「そうなんだ、早いね~」
ルシルは革袋を積み上げて並べていた木材の上に置く。
「でもさあゼロ」
「なんだ?」
「木の壁はいいけどさ……」
ルシルは俺とまだ壁だけの小屋を交互に見る。
「入り口はどこなの?」
「あ」
指摘されるまで気付かなかった。
確かに木を組み上げて壁を造っただけで、そこに出入り口は……。