住まいを探して
荒野。どこまでも荒野だ。
俺とルシルはまた二人だけの旅を始める。俺たちの行く先は、のんびりゴロゴロと過ごせる生活。
「ねえゼロ」
何度となく交わした言葉。
「私たちどこに行くの?」
俺とルシルは勇者と魔王。どこでなにをしようが、どうとでもなる力を持っている。
「戦いっぱなしの生活だったからな、ここは少し落ち着こうと思って」
「何度か小屋を建てたり廃墟に住んだりしたけど、なかなかゆっくりなんてできなかったよね」
「そうだなあ。言われてみれば確かに……折角畑を作ったりしてもさ、いろいろと問題に巻き込まれてきたよな」
「うんうん」
ルシルは俺の隣で歩きながら、我が意を得たりと言わんばかりにうなずいてみせた。
「ゼロが言っていたスローライフっていうの、私もやってみたいなあ」
「う~ん、何度となくやろうとして失敗したやつだけど……もう一度試してみるのもいいかな」
俺は勇者を引退したら、どこか辺境でゆっくり過ごしたかった事を思い出す。
「畑を耕して野菜を収穫して」
「森に行ったら木の実を採りながら獣を追って」
「そうそう。海が近いのもいいなあ。肉に飽きたら魚もいいな」
「貝とかも美味しいよ」
「ははっ、食べる事ばかりだな」
「そうね。でも食べないと生きていけないから」
「確かに! ははっ」
「うふふっ」
俺たちはまだ到達していない新しい生活に希望を持っていた。
「寝泊まりする場所はどうしようか」
「そうねえ、ひとまず雨風を防げればいいと思うよ」
「それなら俺が覚えた工作のスキルでも十分だよな」
「うん」
俺が前に使えるようになったスキルなら、簡単な物作りはできる。それこそ簡易的な小屋ならどうとでもなるし、今まで経験してきた事を活用すればもっとしっかりした家を建てる事だってできるかもしれない。
「いいね。海岸線で、山にも近い所に家を持ちたいな」
「それステキね! 食べ物には困らなさそうね」
「ルシルも食べ物がメインかよ」
俺は他愛のない会話につい笑ってしまう。
ルシルも釣られて笑みをこぼす。
「そうなると海か……この辺りだとそろそろ海岸線も近いと思うけど」
「レイヌール勇王国ともマルガリータ王国とも離れた所だから、商人の交易ルートからは離れているけどいいの?」
「いいさ。自給自足、いいじゃないか」
自信ありげに俺が言うと、ルシルも笑いながら肩をすくめる。
「そうね、それもいいかな」
俺たちはこれからの自由な生活に思いを馳せて歩き続けた。
「ねえゼロ」
「どうした?」
「水の匂いがしない?」
ルシルに言われて俺は鼻をヒクヒクさせる。
「ふむ、なんとなく潮の香りがするようだけど……水の匂いもするとなると」
「うん、河口が近いのかも」
「行ってみるか」
俺たちは少し早歩きになって匂いのする方角へと向かう。
「あ!」
それ程時間のかからない所で、大地の途切れ目に出会った。
「海だ」
「だねぇ」
「それに川も流れ込んでるな」
「うん」
「ルシルの鼻は流石だな」
「えへへ~」
はにかむルシル。俺はそんなルシルの頭を軽くなでる。さらさらな髪が俺の手で揺らされていく。
「ここだったらいいかもな。崖があって海からは高さもある。丘を降れば川と海が近い」
「ちょっと遠くだけど森も見えるから、あの奥の山なら獣もいるかもね」
「きっといるさ。それに木材にも困らないだろうからな」
「いい場所、見つけたね」
「ああ」
海岸線だが少し丘になっていて、その先は崖になっている場所。
山から流れている川が海に注ぎ込んでいる。
その山も青々とした木々に覆われていて、豊かな森を作っているようだ。
「ここに小屋を建てようか」
俺は海に沈もうとしている夕日の前で、ルシルの瞳を覗き込んでいた。
「うん」
簡単だが、優しい返事が俺の耳に入る。
丘の上で夕日に照らされた影が一つに重なった。