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新たな産業

 グレイドラゴンの体内から出てきた虫たちは砦を守る兵士たちによってあらかた駆除された。


「案外虫の潰れた臭いってきっついのな」

「そうね……」


 離れた所で駆除を手伝ってくれたルシルも合流して惨状を見守っている。


「でも、火の使い方も理解しているみたいだし、ユーシュとかゴライアスとか、まあそれなりの戦力が整っているからな、この砦も大丈夫だろうさ」

「そうみたいだね」


 ルシルはゴライアスが虫に食われそうになっていた事は知らないが、おおよその事情は察しているのだろう。

 それを気にしていないゴライアスは、恥ずかしそうに頭を掻いていた。


「ゼロさん!」


 馬に乗って駆けつけたのは国王たるララバイだ。

 それには兵士たちが驚きと歓声を上げる。


「おお……」

「陛下が辺境のこの砦にお越し下さった……」


 兵士たちに右手を挙げて挨拶を示していたララバイは、馬から降りると俺の手を握った。


「聞きましたよ! グレイドラゴンから砦を守って下さっただけでなく、ドラゴンの身体から資材を切り出す方法まで伝授下さったと!」

「別にたいしたことはしていないさ。それよりも兵たちに犠牲が出なくてよかったよ」

「まったくです! ゼロさんがいてくださったからこそ、被害を最小限に食い止める事ができました!」


 まあ本人の感謝の表れなんだろうが、ララバイは俺の手を激しく上下に振る。


「ララバイ王、こんな所まで来てくれるとは」


 ユーシュとゴライアスがララバイのそばに来て親しげに話しかけてきた。


「ユーシュたちも無事でなによりだよ!」

「へへっ、俺たちなら大丈夫さ! それに勇者ゼロさんもこうやって助けてくれたんだしな!」


 ユーシュは俺が活躍した事をララバイに報告してくれる。

 俺は別にそんな事は言わなくてもいいんだが、そこはユーシュの好きに任せるようにしよう。


「それで、ゼロさんがこの石材についてヒントをくださったとか?」

「そんなご大層な事はしていないけどな、死んだドラゴンの死骸から素材を切り出す方法を手伝っただけだよ」

「それでも、このグレイドラゴンの石はとても素晴らしい素材と報告を受けました! 私は砦が突破されたと聞いて増援の軍を起こしたのですが、進むにつれて受ける報告で現状を知りまして」

「まあなんとか戦いには勝てたからな。出兵が無駄になって悪いが」

「いえいえ、兵たちに損害が出ないだけでも十分な価値がありますとも!」


 ララバイは率いてきた兵士たちを見て、砦の者たちも見る。

 誰もがほっとした様子を見せていた。


「確かに人的被害が出なかったのはよかった」

「ええ。それにこの……ドラゴンが残した山ですよ」

「そうだな。このグレイドラゴンの石もマルガリータ王国で上手く使ってやって欲しい。加工によっては便利に扱えるはずだ」


 俺が石の切り出し方を教えた連中は、魔力を帯びたスコップを高々と掲げる。


「ほらな?」

「流石ですゼロさん!」


 砦の兵士に加えララバイが連れてきた応援の軍もまた、ドラゴンの掘削方法を学び、出てきた虫たちの退治方法も覚えていく事で、安定したドラゴンストーンの採掘ができるようになった。


「すごい……この石、マルガリータ王国の特産にも使えますよ!」


 ララバイは感嘆して山を掘り進む兵たちの様子を眺めていた。


「確かに、建材としても素材としても、かなり上質な岩石と言えるだろうからな。さすがは交易で栄えたマルガリータ王国の国王だ。目の付け所は確かなようだな」

「それはもう、もちろんですとも!」


 これでレッドドラゴンのディアーナにとっても、家族の仇が取れたという所だろうし、このドラゴンストーンがみんなの役に立ってくれれば、それは喜ばしい事なのかもしれない。


「ねえゼロ」


 ルシルは少しつまらなそうに俺の顔を見上げた。


「これで平和になったんだったらさ……」


 俺を誘うような瞳。


「そうだな。少しはゆっくりしてもいいか。俺だってのんびりゴロゴロしたいからな」

「うん! そうだよね!!」


 ルシルは喜んで俺に飛びついて抱きしめる。


「ここはララバイに任せて、俺たちはどこかで静かに暮らそうか?」

「それがいいよ、ゼロはずっと戦いっぱなしだったもんね」


 思い起こしてみれば確かにそうだ。

 俺が王国を追放になってからずっと、戦いに明け暮れる毎日だったからな。


 俺はルシルの肩に手を回して、そっと引き寄せる。


「あれ、どこか行かれるのですか? これから宴を催そうかと思っていましたのに」


 ララバイが残念そうに見ていた。


「お前はお前で今は忙しいだろう? 軍の再編もしなくちゃならないだろうし、この岩山の後片付けもあるしな」

「え、ええまあそうですけど、今晩くらい……どうですか? ルシルさんも」


 俺がなびかないものだからララバイはルシルに声をかけてみるが、ルシルも俺と同じ気持ちだ。


「ちょっとこれから二人だけの世界に行くからあとはよろしくね、ララバイ王」

「と、言う訳でな。国を大事になララバイ」


 俺たちはララバイや他の兵たちに簡単な別れを告げて、巨大な岩山を背に荒野へと歩いて行った。

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