後始末のやり方を
俺が教えてからグレイドラゴンの死骸の有効活用がはかどるようになった。
魔力を付与した器具はスキルが使える奴は自分で造れるし、魔力を持っていない奴は定期的に交換して作業を行う。
「ゼロさん!」
休憩中だろうか、ユーシュが額の汗をタオルでぬぐいながら俺の所に来る。
「順調そうだな」
「ええ、おかげさまで! 魔力スコップならサクサク行けるんで、作業が楽にできます!」
「それはよかったよ。資材としてはどうだ?」
「もう、流石はドラゴンだった石ですね! 魔力スコップみたいに特別な事をすれば別ですけど、普段使いじゃあちょっとやそっとの事じゃあ壊れたりしないんで、すごく頑丈な建物ができますよ!」
確かに砦の再建は順調に進んでいるようだ。
切り出した岩は建材としても優秀で、日頃使う道具としても耐久性は群を抜いているだろう。
ちょっとやそっとじゃ破壊できなかった生きていた頃のグレイドラゴンと違い、死骸となった今は魔力を加えれば加工がしやすい岩になっている。
「逆に魔力を帯びた武器には弱いからな、そこは気を付けるんだぞ」
「はいっ! でもこんな辺境の土地に、魔力使いの野盗なんて出てきませんからね」
「ふむ……だといいが」
俺たちが談笑をしている所で、遠くから叫び声が聞こえてきた。
「どうした!?」
慌てて砦の方へと逃げていく兵を捕まえて状況を聞く。
「応援を! 援軍を!」
「いったいなんだ! 落ち着けっ!」
「虫が、虫がいっぱい……」
青ざめた顔で兵士が説明する。ユーシュはなにが起きたのかを理解できないものの、大変な事が起きている事は解っているようだ。
「虫……? どんな奴だ」
俺は兵士の肩をつかむ。
「大きなダンゴムシというか、ゾウリムシというか、そんな奴らがいっぱい山から湧き出してきて……何人か仲間が取り込まれてしまって……」
「あー……」
俺がグレイドラゴンの体内で相手した奴らか。おそらく死骸をほじくっていたら、中から出てきたって事だろうな。
「ありったけの火を持ってこい! 取り込まれた奴らも虫どもを追っ払えばまだ救えるかもしれない!」
「はいっ!!」
俺は兵士が来た方へと向かう。
「うおっと……」
思ったより多いゾウリムシの山。一面を覆う虫、虫、虫。
「飛ばないだけマシ、か……。あのこんもりしている所に兵が取り込まれているかもしれんな」
俺は盛り上がっている虫の山に炎のスキルを叩き込む。
「間に合えばいいが」
ゾウリムシが跳ね上がって、中から人の手が出てくる。
「大丈夫か!?」
俺は見えた手をつかみ、虫の山から引き上げた。
「ぶはっ! 助かった!!」
「よかったな、手を引き上げたらもげた腕しかなかったなんて事にならなくて」
「へへっ、まったくで。うへっ、気持ちわりぃ!」
起き上がった兵士は身体に付いている虫を手で払って、他にも虫につかまっている兵士たちを助けにいく。
「くそっ、次から次へと湧いてきやがるぜ!」
「火を使え! この虫どもは火に弱いぞ!」
「ほう、それはいい事を聞いた!」
兵士は腰から携帯用の松明を取り出し、俺がスキルで火をともす。
「助かる!」
「行けっ!」
虫を蹴散らし、兵士たちを助けていく。
助けられた兵士たちはそれぞれが松明を使って虫を追い込んでいった。
「虫がいっぱい出過ぎて困っちまったけど、どうやら形勢逆転みたいだな」
「あんたのお陰で助かったぜ」
俺が最初に助けた兵士が右手を差し出す。
「俺は戦士上がりのゴライアスってんだ。あんた勇者ゼロだろ?」
「ああ、ララバイたちとパーティーを組んでいた戦士だな」
「そうさ。あんときはあんたと競い合っていたけど、今は命の恩人だぜ」
俺はゴライアスと握手をする。
「この砦でよく働いてくれているらしいじゃないか」
「いやぁ、辺境に追いやられて腕がなまっている所だったからな、たまにはこういう刺激があって面白いぜ」
「死ぬ寸前だった奴がよく言うなあ」
「へへっ、それが戦士の楽しみってやつよ!」
ごっつい身体で屈託のない笑顔を見せるゴライアス。
「おおい! 大丈夫か!?」
そこに駆け寄ってきたユーシュが、近くの虫を蹴散らしながら叫んでいた。
「まああらかた虫は片付けたし、やっつけ方も判ったと思うが」
「はあっ、はあっ……そうですな、火が……効果的ですね……」
息を切らせながらユーシュが大量の松明を抱えて持ってきてくれる。
「これを……兵たちに……」
「任せろ!」
ユーシュの持ってきた松明をゴライアスが受け取り、火を付けて辺りに突き立てていく。
近くにいた兵士に火の点いた松明を渡し、虫を次々と退治していった。
この分だと、兵士たちだけでも虫は対処できそうだ。