砦の再建に便利な素材
一つの山が突然生まれ、マルガリータ王国の地図を一日で変えた。
南に位置する国境の砦は外部からの侵略に備えた兵士たちの拠点だったが、一匹の巨大なドラゴンによって完全に破壊されてしまったのだ。
「ゼロ、みんなたくましいね」
守備兵たちが壊れた砦の瓦礫から使える資材を取り出し、簡易的な小屋を建てていた。
「今日寝る場所もないからな、本国に応援を頼むとしても、この場所を放棄する訳にもいかないだろうし」
「大変なんだね、国に仕えるっていうのも」
「そうだな……俺も国に所属する勇者だったからなぁ。勤め人は組織に縛られる。辛いところだな」
「ゼロはクビにされてよかったんじゃない?」
「一人でやっていこうと覚悟できたから、結果としてはよかったんだろうな」
ちょっとむくれた顔でルシルが俺を見る。
「あ、すまん。俺とルシル、俺たち二人でやっていく覚悟だな」
「よろしい」
ニコッと笑うルシルの頭に、優しく手を乗せた。
なでなで。なでなで。
ルシルはうっとりと目を閉じて俺が頭をなでるのに任せる。
その奥ではもはやただの岩山と化したグレイドラゴンの死骸に、スコップを突き立てようとして弾かれている兵士が見えた。
「なにをやっているんだろうかなあ」
「うん? あの兵士?」
「そう。岩を削り出そうとかしているんだろうけど……あ、スコップが折れた」
スコップの柄が耐えられなくなったのか、木の部分が折れてスコップが転がる。
その衝撃で兵士も尻餅をついてしまっていた。
「大丈夫か?」
俺は兵士の所へ行って手を差し伸べる。
「あれ? お前……」
「あ」
そこには見覚えのある顔が。
「えっとお前は確か……」
「チッ、嫌な奴に出会っちまった」
ふてぶてしい態度だが、敵意はないようだ。ふてくされたような態度が記憶に残っている。
「あ! お前、ララバイと冒険者をやってた奴だな!?」
「む。そうだよ」
「えっと……名前は……元勇者のユーザ?」
「ユーシュだよ!」
「あーそうそう、確かそんな名前。勇者のユーシュな、うんうん。久しぶり!」
俺は兵士の肩を叩いて挨拶の代わりにした。
「あれだったよな、ララバイがまだ王位を継ぐ前に、身を隠して冒険者をしていた時のパーティーにいたの、お前だったよな。他の連中は元気か?」
「戦士だったゴライアスは俺と一緒に辺境砦に飛ばされてるけどな、プリスやピックたちは戦闘系じゃないから今はどこでどうしているか判らんよ」
「そうかそうか」
立て続けに名前を言われても俺にはピンときていないんだが、とりあえず相槌を打っておく。
「それで、この岩が掘れないのか?」
俺は刺さりもしないで転がっているスコップの先を拾ってみた。
「それがなあ、見ての通り硬くて歯が立たないんだよ。これだけの岩だから建材に使えるんじゃないかって思ってな」
「へぇ」
俺は剣を抜いて岩山に突き立てる。
俺の剣はすんなりと岩を割って刺さっていく。
それを見たユーシュが目を見開いて驚いていた。
「えっ!? どゆこと!?」
「うーん、逆になんでほじくれないのかが俺には疑問なんだが……」
折れたスコップと俺の剣を見比べる。
「ほう、もしかして」
俺はスコップの先で岩をつつく。
ガキン!
硬い音が響いてスコップは弾かれる。
「ねえゼロ、これって……」
「そうだな。魔力を帯びているかどうか、じゃないか?」
俺は少し魔力を集中させ、スコップの先に移す。
「これでちょっとすくってみな」
ユーシュは俺から手渡されたスコップの先を岩山に当てる。
サクッ。
「おっ!?」
スコップの先が簡単に岩に刺さり、ユーシュはアゴが外れるんじゃないかってくらい、あんぐり口を開けて驚いていた。