人体の再構築
ルシルは初めて聞く名前に興味を持った様子だ。
「ピカトリス?」
「ルシルはピカトリスの事を知らないよな。三年前、お前と戦う時にはもう袂を分かっていたから」
「そうね、あの時はゼロ一人だけで私に挑んできたから他の人は知らないわ」
俺はムサボール王国の兵士として魔王軍討伐に参加していた。
だが、そこから部隊が壊滅し仲間も討たれ、最後には俺とピカトリスの二人だけになってしまっていたのだ。
「その頃からかな、勇者の称号とスキルが使えるようになったのは」
そこから俺は、ピカトリスと共に各地で発生した問題を解決していくうち、急激に強くなっていったのだった。
「懐かしいな。あいつならもしかして人体錬成についても何か知っているかもしれない。シルヴィア、ピカトリスについて噂を聞いたりしないか?」
「ゼロさん、直接関係があるかは判りませんがエイブモズという町に錬金術の研究をしている集団がいると聞いたことがあります」
「エイブモズか。各地を渡り歩いていたが聞いたことがない町だな。まあ確かにすべての地域を把握している訳ではないからなんとも言えないが」
そこに行けばルシルの身体を生成する秘術のきっかけをつかめるかもしれない。
「セイラ、ゾルト村の畑は後を頼んでいいか? 仕組みと種は準備できているしやり方は村の連中に伝えているからな」
「あ、うん。何とかやってみるよ。でもあんたはどうすんのさ。もう村を出て行こうとしているの?」
俺はうなずいて肯定する。
「そっか。うちもついていきたいけど今はやめとく。村の事もあるし、エッチョゴのやった後始末もあるからね。これからがゾルト村の正念場だからさ」
「ああ。いい覚悟だ。畑の事は任せたぞ」
「塩取りーナンバーワンはうちが立派に活かしてみせるよ!」
「お、おう……」
やはりその呼び名はどうかと思うがな。
「そうと決まれば早速にも支度をしよう。食料は……ある物でどうにかしよう。村にも少し分けておきたいしな。水は脱塩した物をもらっていくとして、あとはエイブモズまでの地図……簡単な物でもあればいいのだが」
「街道図と近隣の集落が書いてあるやつならもらったにゃ」
カインが地図を持ってきて見せてくれる。
「ほう、この方角を進めばエイブモズか。それほど遠くもないらしいな」
「荷馬車なら三日もあれば行けるようですね」
シルヴィアも荷物を整理しながら地図を見ていた。
「明日はもううち、見送りには行けないと思うから、ここでさよならね」
「そうなの? それは残念だけど、いろいろ忙しくなるものね。判ったわ」
セイラの言葉に残念そうな表情を見せるシルヴィア。
「バイヤルさん静養してくださいね。セイラちゃんも、元気で」
シルヴィアはセイラを優しく抱きしめる。
「あんたもね、シルヴィア。いろいろとごめん、そしてありがとう」
セイラが抱きしめ返す。
「ボクも混ぜるにゃ~!」
カインが二人に飛びついてその勢いで三人とも近くのソファーに倒れてしまった。
「全く何やってんだか」
あきれながらも笑う俺に、他の皆の笑い声が重なる。