岩の牢獄
グレイドラゴンの攻撃はなかなかにして厄介で、大小さまざまな棘が四方八方から襲いかかってくる。
棘自体はグレイドラゴンの皮膚というか鱗なのだろう。めくれるようにして次々と生成されていく。
「グッグッグ、我のこの鱗棘、いつまでかわせるかな?」
「なあに、その内ずるむけになった皮膚が出てくるだろうよ」
「それまで耐えられるかなあ?」
正直、それでこの鱗が枯渇するとは到底思えない。
考えてもみると、数千メートル級の山と同じくらいの大きさだ。その表皮が薄いはずもないのだ。
「かわす以外にも対策を考えなければ……痛っ!」
俺は足に鋭い痛みを感じた。
「足下の棘が……剣のように」
飛んで襲ってくるだけではない。天に向かって立ち上がった棘が無数に地面を埋め尽くしている。
足の甲にまで突き抜けた棘には俺の血が付いていた。
「グッグッグ、歩くのもままならんようだなあ! こざかしい小蠅よ」
「くっ……巨体のわりに芸が細かいな」
俺は近くの地面に生えている棘を剣で破壊し、平らになった所で腰を下ろす。
「いっつ……」
足に刺さった棘を無理矢理引き抜き、今一度簡易的な治癒を施した。
「さてと、できるかな……SSランクスキル発動、豪炎の爆撃! 少ない魔力で、連発してみる!」
俺は両足に意識を集中させ、足の裏から豪炎の爆撃を発動させる。
手からスキルを発動させるのと同じように、足の裏から発動させるイメージだ。
棘に触れると小さな爆発が起き、棘を破壊していく。
「お、これなら行ける!」
俺が歩くたびに爆発が棘を粉砕する。
「ちょっと面倒だが、棘対策はこれでなんとかやれるな!」
爆発が有効だという事はなんとなく把握していた。所詮は岩だからな。
砕いた後の破片も厄介だが、剣の速しみたいになっているよりはまだいい。
「ほう、面白い事をするではないか。なれば、これはどうかな?」
大きな鱗が逆立って、俺を取り囲む。四方が岩の壁で覆われているような状態。
「岩で作った筒状の監獄、という訳か」
「壁はどんどん厚みを増していく。小蠅程度の爆破力では破壊できんぞ?」
「そんなに分厚いのか?」
「小蠅百匹程度が縦に並んでも届かないくらいの厚みはあるからなあ」
それはもう壁と言うより、小さい丘とでも言うべきか。
「厚さは関係ない。グッグッグ、小蠅は我の表皮に付着した異物。それを取り込んで吹き出物ができた、みたいな感じだなあ」
「俺を炎症した膿みたいに言うなよ」
「異物は一度取り込んで、毒性をなくしてから排出しなくては」
天井から差し込む光が細くなっていく。
「壁も迫ってきている。こんな狭い状況で爆破は使えないか……」
仮に爆発させたとしても、爆風や破片が俺にも襲いかかってくる。自滅してしまうのが落ちだ。
光りが細くなり、消えた。
俺は完全に岩の中に閉じ込められてしまう。
「身動きが取れなくなる前に……SSランクスキル発動、旋回横連斬! 回転する剣で周囲を斬り割けっ!!」
回転する俺を軸にして剣を振るう。切られた岩が破片となって飛び散るが、俺が回転している事で俺の身体に当たる前に勢いで弾かれてしまう。
「俺の魔力を乗せて! 斬り割けっ!!」
剣だけではなく、そこから発生する剣圧と衝撃波が岩を割っていく。
「な、なにっ!?」
グレイドラゴンの焦りが聞こえる。
剣で斬り割いた隙間から光りが飛び込む。
「どれだけ分厚かろうと俺の剣を防ぐ事などできんぞ!」
俺が回転を止めた時、俺と囲っていた岩が全て破片となって転がっていた。