背中の上の戦場
グレイドラゴンは足を止めた。遊びのつもりで俺と戦う気になったのか。
「小蠅よ、我の上で好き勝手ほざきおって。だが面白い、我に戦いを挑んでくる者などおらなんだからな」
「そうか? かなりお前を阻止しようとして戦った奴はいたと思うが」
「はて? 覚えがないなぁ」
グレイドラゴンはとぼけた声で応える。
いや、本当に覚えていないのか、それとも初めから意識していないのか。
「小蠅ごときの事など覚えておらんわい」
「なるほど、そういう事か」
戦った奴の事は覚えていない。それくらいのインパクトしか与えられなかったという事か。
俺はウォーミングアップも兼ねて何度か跳びはねてみる。
「グッグッグ……お前も他の小蠅と同じように、我の記憶から失せてしまわんようになあ」
くぐもった笑い声が俺の予想を肯定した。
「大丈夫だ、心配するな」
「ほう、自信家よのう。それだけ我の記憶に爪痕を残せるとな?」
「いや、そんなつもりはない。SSランクスキル発動、豪炎の爆撃! まずはその硬い鱗から爆破させてもらうぞっ!!」
先手必勝。
いきなり俺はグレイドラゴンの背中に手を当て、爆発させた。
「グボワァッ!」
岩が吹き飛び黒い煙が上がる。
「残念だがグレイドラゴン、お前の言う通り俺の事は記憶には残らんだろうな」
「こ、小蠅がぁ!」
「だが、お前の最期の意識になるだろう。SSSランクスキル発動、重爆斬! 砕けろ、首筋の岩どもよっ!」
俺は剣をグレイドラゴンの背中に突き刺し、剣技による大爆発を起こす。
「こしゃくなっ!!」
グレイドラゴンが身体を揺する。俺の立っている場所は言わば切り立った岩山の崖っぷち。背中で一番高い場所は上の方に雲がかかるくらいの高さで、そんな断崖絶壁から叩き落とされたら、全身傷だらけで全ての骨が折れてもおかしくない状態になる。
まず、命はない。
「あっぶねぇ!」
俺は振り落とされないように剣を深く刺し、柄を握りしめた。
「落ちろ小蠅めっ!」
グレイドラゴンは執拗に身体を動かし、俺をふるい落とそうとする。
だが、言ってみればそれくらいしか奴のできる攻撃はない。
「落とされなければ俺の勝ち、だな」
「グッグッグ、どうかな!?」
「なっ!」
グレイドラゴンの棘が宙に浮き、俺の方へと向かって落ちてくる。
「なんかどっかで戦った時の様子に似ているな」
棘の雨が俺に向かって降り注ぐ。命中しそうな棘は魔力を帯びた剣で振り払う。
「だがこれくらいでは俺を倒せな……ぐふっ!」
地面から生えた棘が俺の脇腹を突き刺した。
「伸縮自在、好きなように操れる棘だ。小蠅ごときには過ぎた技だがなあ!」
「ぐ……やるな……」
「おい小蠅よ、我の最期がどうとか言っておったなあ? ああん?」
俺にダメージを与えた事でグレイドラゴンは上機嫌だ。
「どちらが最期か、わからなくなったのではないか? グッグッグ」
「くっ……」
俺は棘を叩き割り、拘束から逃れる。
腹に空いた大きな穴は簡単な治癒スキルで応急処置をした。
「どうした小蠅、息が上がっておるぞ?」
地の底から響くような笑い声が聞こえてくる。
「お、大きなお世話……だぜ」
「もっと愉しませてくれるのだろう? グッグッグ」
俺は額の汗をぬぐって岩だらけの地面、グレイドラゴンの背中を見つめた。