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思った通りの交渉決裂か

 動き出したグレイドラゴンは確かに速い。カルデラン火山がどんどんと離れていく。


「このままの勢いで行けば、人の住む場所までそう時間はかからないだろうな。数カ月、いや、数日か……」


 そうなっては一大事、ようやく地上界でみんなが生活を始めようとしていた所だ。これで住む場所を失う訳にはいかない。


「グレイドラゴン! 聞いてくれ!!」


 俺はドラゴンの背中で棘につかまりながら話しかける。


「なんだ小さい奴め。小蠅がやかましいぞ」


 身体の大きさに比例して態度もでかい奴だ。俺の足下にいるというのに上から目線で話をしてくる。


「足を止めて話をしよう。どうだ?」

「我は我の好きなようにする。心配するな、我は小蠅ごときを気にせぬ。邪魔とも思わん」

「ああ、俺たちの事は気にしてくれなくていい。ただ、お前のような奴が俺たちの生活圏に入ってくると、迷惑なんでな」

「だから我は別段、小さい奴がどう困ろうとも関知せん。好きに困っておればよい」


 話は平行線どころか、会話にすらなっていない。


「だったらどうだろう、方向を変えてくれないだろうか」

「興味ない」

「カルデラン火山、あそこにある火山はお前よりも熱く強いぞ」

「それがどうした」

「悔しいとは思わないか? お前にも勝てない相手がいるというのは」

「ふむ」


 少しだけ動きが鈍ったか。考えている風ではある。


「戻るのは面倒だ。我はあれよりも更に大きい火の山を平らげてきた事があるしな、今さらどうでも構わん」


 それならば海に向かわせようか。流石にどれだけの巨体を持っていても海の大きさにはかなわない。


「ではどうだ、西の方へ向かえば海があるぞ。海はお前よりもはるかに大きく、そして広い」

「ふむ」

「相手にしてみてはどうかな」

「小蠅よ」


 グレイドラゴンの動きがまたゆっくりになる。

 少しは会話に意識を向けているのだろうか。


「我が海を知らんとでも思うたか?」


 淡々と話すその口調には変化が見られない。怒気もいらだちも感じられない、平坦な声だ。


「百年は海と語り合ったが、飽いたわい」


 体験済みか。


「他に我を楽しませる物がこの世界にあるというのであれば聴こうか」

「興味は持ってくれているんだな」

「少しは、な。ここ数百年で一番しゃべった気がするわい」


 山もダメ、海も経験済み。こんな奴に数百年単位で興味を持たせる事がなければ、人間の済む地域にまで押し寄せてきてしまう。

 方向としても一番近いのはララバイの治めるマルガリータ王国か。


「それで、小蠅の羽音も飽きてきた。我を楽しませる事はできそうもないかな?」


 また少し速度が上がった。


「いいだろう、そこまで言うのであれば考えてやらんでもないぞ、グレイドラゴン」

「ほう」

「物見遊山で物足りないというのなら、最大限の娯楽を提供しよう」

「小蠅ごときになにができる?」

「ふっ、小蠅小蠅とお前の方が五月蠅うるさいな。だがそれも今だけだ。俺の提供できる愉しみ……」


 俺の中でも熱量が上がっているのだろう。つかんでいたドラゴンの棘を握力で握りつぶしてしまう。


「ほう」

「俺との命懸けの戦いだ。興味があるだろう?」


 ドラゴンの足が止まる。急に動きが止まった事で俺はドラゴンの背中から振り落とされそうになるが、足を踏ん張って飛ばされないようにこらえた。


「小蠅ごときが、吠えおるわ」

「侮ると怪我では済まんぞ、グレイドラゴン」


 俺の立っている場所が小刻みに揺れる。

 グレイドラゴンは笑いをこらえているのだろうか、小さくくぐもった地鳴りが聞こえてきた。

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