超巨大な岩山から抜け出すと
山が動いている。ルシルからの報告を受けて俺は今まで進んできた道を戻り始めた。
「火山が近くで噴火しているから、その揺れかと思っていたが……山が、この山が動いているとか、どういう事だ!?」
俺が鍾乳洞を戻っている時、周りからカサカサと音が聞こえてくる。
「灯りを……」
周りを明るくして見ると、壁が動いているように見えた。
「壁? いや、あれは……」
人間の身体ほどもある大きさのダンゴムシだかゾウリムシだかが壁一面ひしめきあっている。
「さっきまでいなかったのに……急に出てきやがった」
キシキシと音を立てて周囲を埋め尽くす。
「出口がふさがれた!?」
辺りを埋め尽くす虫の群れ。床、壁、天井全てが虫で満たされている。
「き、気持ち悪いな……。洞窟で炎は使いたくないが……電撃で行けるか? Rランクスキル発動、雷光の槍。電撃でも火傷はさせられる!」
俺は両手から雷を宿した槍を放出し、壁にへばりついている虫を焼く。
焦げた臭いが辺りを満たす。
「邪魔をしなければ死ぬ事もなかったものを」
俺は床にひっくり返ったゾウリムシを踏み潰すと、中から青白い液体が噴き出した。パキパキと割れる外殻とドロリとした体液が靴を通して俺の足に感触を残す。
「仕方が……ない、とにかくここから出ないと……」
虫を踏み越えて元来た道を戻るが、かき分けてもかき分けても虫の床から進めない。
「くっ、まとわりつく……ええい、邪魔だっ!」
足から這い上がり、天井から落ちてくる奴が腕や背中にへばりつく。
「Sランクスキル発動、風炎陣の舞! 焼き尽くせっ!!」
洞窟の中が炎であおられる。一瞬にして虫どもが灰になり散らばっていく。俺は口をマントで覆いながら出口を目指す。
「やはり……火の点きが悪い……それに息苦しくなってきた。狭い所で燃やしすぎたか……」
視界が狭くなる。このままでは息ができなくなって倒れてしまう。
「Sランクスキル発動、超加速走駆……突き抜けろ……」
出口に向かって急いで駆け出す。鍾乳石が上からもしたからも多数生えている。心なしか地面も揺れているように思えた。
「くそっ、頭がクラクラする……」
杖代わりに剣を地面に突き立てる。
グオオオォォォ……。
ガタガタと洞窟全体が揺れてうなり声のような音が洞窟内に響き渡った。
「外……外……、揺れる……」
剣を頼りに一歩ずつ進む。後ろの方からまた虫の足音が聞こえてくる。
「しつっこい……」
荒い呼吸をしながら前へ前へと進んでいく。
「お……光……」
なぜか洞窟の入り口が閉じているが、鍾乳石のひしめき合う壁の隙間から外の光が見えた。
「Sランクスキル発動、剣甲突……。突き抜けろっ!」
俺の放つ剣撃が目の前の鍾乳石を砕く。
「ぶはっ!」
外から新鮮な空気が流れ込み、俺の肺を満たす。
「はあっ、はあっ……ふぅっ……」
足を引きずりながら洞窟から転がり出る。
「ゼロ!」
上からルシルの声が聞こえた。
「大丈夫!?」
「あ、ああ。だが、この洞窟……なかなかどうして、歯応えがあったぞ」
「ゼロもワイバーンに乗って!」
「えっ?」
俺はルシルに手を引かれてウィブの背中に乗り込む。
「どうしたんだ、いきなり」
「いいから。ウィブ、すぐ飛んで!」
ルシルがウィブに叫ぶ。
「承知!」
グンと上昇する力が俺を押し付ける。
「お、おお……」
さっきまで俺がいた場所を岩山の壁がせり上がってのしかかってきた。
「亀!? いや……ドラゴンか!」
俺に襲いかかってきた岩の塊は、大きく口を開けたドラゴンの頭の形をしている。
「俺はドラゴンの口の中にいた……のか……」
冷や汗が背中を伝う。あの鍾乳石はドラゴンの牙。地響きはドラゴンの動きだったのか。
動き出したグレイドラゴンを上空から眺める。
「確かにドラゴンだ。山全体がドラゴンだったんだ……」