穴を探して
この岩山のどこかにグレイドラゴンがいると見込んで降りてはみたものの、辺りは岩がゴロゴロ転がる不毛の地。
「レッドドラゴンたちを踏み潰していくくらいの大きさだからな、隠れるっていう程度じゃ済まないだろうし。かなり大きい空洞があるか、地下に潜ったか、まあそんな所だろう」
まずは手短な所から、洞窟がないかを探ってみる。
「空洞があったりすれば音の響きでなにかが判るかな」
隣の火山は絶えず炎を噴き出していて、たまに大きな噴火をする時にはこちらまで爆音と地響きが伝わってくるくらいだ。
「繊細な音じゃあ、判らないかもしれないが……」
俺は剣を抜いて地面の岩に叩き付けてみる。
硬い金属の音が響くが、表面的な音の伝わりだ。地面の奥にくぐもったような音は響いてこない。
「おおっと」
地面が揺れる。また隣の火山が噴火をした。
「この岩山は火山じゃないのかな。それとも溶岩の吹き出し口が移ってカルデラン火山が噴火するようになったのか。そういえば前にピカトリスから教えてもらったなあ。火山って動くんだ、って」
俺は近くに飛んできた火山弾を剣で弾く。
「とは言っても、数万年とかそういう規模らしいけど。だとしたら、俺のいる岩山は数年前の火山で、隣の噴火している山は今の火山って事かもしれないなあ」
千年の時間は経験しているが、数万年ともなると流石に俺も想像がつかない。
「少し掘ったら穴でも見つかるかな? 火山だったとしたら、溶岩が通った跡が洞窟になっている事もあるらしいからな」
俺は少しだけ地面を剣でえぐってみる。
「お、簡単に掘れるぞ」
地面をつつくと、軽く穴が掘れた。俺の力で簡単に、というくらいだから、他の奴からしたらすごい力が必要なのかもしれないが。
「ちょっと深く掘ってみるか」
俺は剣でえぐれる程度でどこまで行けるか試してみた。
「ふむ。スコップと違ってすぐ埋まってしまう……」
剣でえぐって、砕けた岩を手で掻き出す。効率は悪いが穴を掘る事はできるか。
「それにしても、隣の火山はずっと噴火しているなあ。流れる溶岩もすごい事になっているし。レッドドラゴンは火山に生息していたりするって事だけど、あの火山でよく生きていられるものだよ……」
ディアーナの親兄弟はグレイドラゴンに踏み潰されてしまったと言う。
棲んでいたのがこのカルデラン火山。グレイドラゴンの足跡がずっと続いていて、きっとそのどこかにレッドドラゴンたちの死体もあるのかもしれない。
「ん……?」
そう言えば、グレイドラゴンの足跡がこの岩山に続いていたから、俺たちはこの山を調査しようと思った。
「待てよ、それだけ大きなドラゴンだとして、岩山に隠れているのなら……出入り口になる場所がどこかにあるはず」
それらしい場所は見つからなかったが。穴を掘って、その掘った岩で入り口をふさいでカモフラージュしているなら、他と違う場所を探せば見つけられるかも。
「初歩的な事だったな。足跡がヒントなんだから、まずはそこから探してみるべきだった!」
俺は岩山を駆け下り、グレイドラゴンの足跡が見える所まで近付いていった。
「ほらな、不自然に足跡が途切れている!」
足跡はずっと続いていたのに、この岩山の裾野辺りで消えている。その先の岩はあまり大きな物がない。
「掘って砕いた岩で穴を埋めている……きっとそうだ」
俺は剣を使って岩をつついてみる。
「当たり、か?」
岩はもろく崩れて、ガラガラと雪崩を打って転がっていく。それこそたいした力も使わずに、簡単に穴が掘れる状態だ。
「穴、みっけ」
岩山の壁面が崩れて大きな穴が現れた。
それこそレッドドラゴンの身体より何倍も大きな物でも通れそうな穴が。