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雷の除け方

 俺たちはパプールの町から出て、ディアーナの指し示した場所へと進んでいる。

 当然、空を飛んで。


「悪いなウィブ、こういう時にばかり呼んでしまって」

「なあに気にするでないのう。聞けばかなり遠い場所だからのう、儂が行かねば誰が行くというのかのう」


 ウキウキしながらウィブは空を飛ぶ。

 確かに幼女のドラゴンたちを飛ばす訳には行かなかったが、それにしてもワイバーンのウィブがここまで前向きに手伝ってくれるとは思わなかった。


「ふっふっふ、儂はワイバーンだが、それでも勇者の役に立つのはドラゴンじゃあなかったということだのう。ふっふっふ」


 なるほど。

 ドラゴンに対する優越感がウィブをここまで上機嫌にさせているのだろう。


「う、うん。頼りにしているぞウィブ」

「ふっふっふ、任せるがいいのう」


 ウィブは笑いながら南を目指す。カルデラン火山への長い道のりだ。


「ねえゼロ」


 ウィブの背に乗っているのは俺とルシルの二人だけ。鉄製の鞍に乗ってウィブから振り落とされないようにしている。


「なんだ?」

「そのグレイドラゴンって本当にこの先で見つかるかなあ」

「それはディアーナを信じるしかないんだが……」


 俺は自分の中に生まれてくる不安を払拭するためにもディアーナの言葉を大切にしていた。


「でもさ、距離があればある程、少しの確度でも大きなずれになるよ?」

「確かに……ルシルの言う事は判る。だが、他にグレイドラゴンを見つける手段が無いんだよ。今まで必死になって探してきたのに」

「あの子ドラゴンが一番有力な情報だったのは理解しているけどね」


 それまで俺たちは世界をひっくり返すくらいの衝撃を持っているドラゴンの話は、噂程度にしか聞いていなかった。

 だから探すのも半信半疑だったのだが、ここに来てディアーナの話を聞いてしまったからには、そこへ向かわなくてはならない。


「グレイドラゴンの話が嘘や伝承だけであればそれでいいと思っている。そこに存在しなかったら、それで構わない」

「ゼロらしいね。無駄に終わるかもしれないのに、無駄であって欲しいって思っているんでしょ?」


 俺の気持ちを汲んでくれたルシルの頭を優しくなでる。


「ふにゃぁ……」


 目をとろけさせて俺のなでなでを受け入れてくれるルシル。


「ああ、そんなどでかい奴なんかいない方がいい。噂は嘘でした、で終わる方がいいんだよ」

「うん」

「でもな、そうじゃなかったら……」


 なにかがあってからでは遅い。それは俺も理解していた。


「ねえゼロ」


 頭をなでられながら進行方向を見ていたルシルが警戒を始める。


「どうした」

「あの雲、雷雲かな」


 ルシルが見る方向には、大きく暗い雲が広がっていた。


「時折見せる明かりは稲光か」

「そうかも……」

「ウィブ」


 俺は飛行しているウィブに話しかける。


「あの雷雲を避ける事はできるか?」

「ああ、やってみるのう」


 ウィブは降下を始め、雲から距離を取ろうとした。


「勇者よ」

「なんだウィブ」


 いつになく真剣な声に俺も身構える。


「あの雲、生きているようだわい。儂も避けられるかどうか判らなくなってきたのう」


 ウィブが言った矢先。


 ピシャーーン!!


 閃光と雷鳴が辺りを満たす。


「うわっ!」

「きゃぁっ!!」


 思わず声が漏れてしまった。電撃ならルシルの攻撃でいつも見ているはずなのに、こうして雷雲から直接狙われる状況は慣れていない。


「ウィブ! 回避だ!!」

「承知っ!!」


 力みなぎるワイバーンにとっては難しくもない事のはず。

 ウィブは辺りを通過する稲妻をいくつも避けて通る。


「そのまま……この雲を越えろっ!」

「おうっ!!」


 暗い雲の中を突き抜けるウィブ。いつの間にか辺りは雷雲に覆い隠されていた。


「ルシル、電撃を放てるか!?」

「やってみる!!」


 ルシルが手に持っている銀枝の杖をかざし、横や後ろに電撃を打ち込んでいく。

 稲妻はルシルの放った電撃に吸い寄せられ、接触すると大きな爆発の光りと音を生み出して消えていった。


「よしっ! 散らすには電撃が有効だな!」

「うん! もっと投げてみるよ!」

「頼んだ!!」


 雷雲の邪魔をするように、俺たちは電撃や氷の槍を放出して稲妻を追いやっていく。


「このまま突っ切れば……」


 だが、厚い雲はどこまでも続いている。


「ルシル! 電撃を! 俺は氷の槍で雷を誘導する!」

「判った!!」


 ルシルが電撃を放つと、雷雲の中でくすぶっていた電気が引き寄せられていく。


「俺もっ! Rランクスキル発動、氷塊の槍(アイススピア)! 氷で雲を揺さぶっていけっ!!」


 俺の放つ氷の槍が雲を突き抜けると、不安定だった雷が氷に集まって爆発を起こす。


「俺たちの方へやってこなければそれで構わない! ウィブ、俺たちが雷の露払いをする! その隙間を突っ切ってくれ!!」

「承知!!」


 ウィブは俺たちを信じて、雷雲をかき分けた中を突き進んでいく。

 俺たちが電撃と氷を放ち続けた事で、雷雲の中に薄い部分ができはじめた。

 進行方向、雲が薄くなっている場所にウィブが突っ込む。


「このまま進んでも言いかのう?」


 雷雲を避けられるか、脱出できるか、ウィブには当然判らない。

 だからこそ、俺たちに判断を委ねるのだ。


「ウィブ、罠なら俺たちがどうとでもしてやる。だからこのまま前進! この雲とて無限ではない! いつかは端に、そして外へ行ける!」

「了解したっ!」


 俺たちはウィブに任せ、ウィブは俺たちに進む先を委ねる。

 共に信頼し合った結果、雷雲を突破する事ができた。


「お、おう……」


 突き抜けたそこは、火山が噴火している真っ赤な世界だ。

 一面の炎が、雷雲を突き抜けた俺たちを赤く照らしていた。

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