見知らぬ火山への道
レッドドラゴンの幼女ディアーナが知っているのは、火山の近くにグレイドラゴンが現れたという事だ。
「なあディアーナ、お前はヴォルカン火山って知っているか? あそこにもレッドドラゴンがいたんだが」
俺は前に倒したレッドドラゴンの事を思い出す。
「ううん、あたしがいた火山はカルデラン火山って呼ばれていたよ。ヴォルカンのドラゴンとは交流なかったな」
「そうか」
「どうしたの? あたしの棲んでいた所を知りたいなんて」
「いや、ヴォルカン火山のドラゴンを倒していたから、もしかしてと思って。お前の家族とか親類じゃないかって」
「そっか、ありがとうね」
ディアーナは小さなレディの挨拶をして礼を言う。
「あたしの事を気遣ってくれて。でも大丈夫よ、レッドドラゴンったっていっぱいいるし、たまたま近くにいたってだけだから」
「そうか。本来ならドラゴン自体珍しい存在なんだが……」
俺が言いよどむと、ルシルが割って入る。
「私がけしかけたドラゴンをこれでもかって倒してくれたもんね、勇者だった頃のゼロは」
「えっ、そうなの!?」
ルシルの言葉にディアーナが一歩退く。怖い者を見るような目でソウキュウも俺の事を見ている。
「それはルシル、お前が魔王で人間の国をたくさん滅ぼしていたから、それに抵抗していただけだよ」
「でもドラゴン退治はいい経験稼ぎになるって言っていたよね」
「む、確かに戦闘経験はかなりドラゴンで積んだ気がするが……まあ昔の事はいいだろう」
それもこれも、この世界の創造神たちが俺たちに与えた試練だったという事だし。
その中で生き抜いた俺たちは、今神の手から離れて自分たちの命をつないでいるのだ。
「ともかく、ディアーナのいたカルデラン火山に行ってみようと思う。グレイドラゴンの足跡くらい見つかるだろうからな」
「そうね、行く先が判れば、被害を最小限にできるかもしれない」
「だから悪いんだが、ディアーナの棲んでいたカルデラン火山の場所を教えて欲しいんだ」
俺はディアーナの小さい手を握る。
「ど、どうしてグレイドラゴンの事を探しているの?」
ディアーナは少し緊張しながら、それでも真面目に尋ねてきた。
「夢で見たんだ」
「は?」
俺の言葉にディアーナの小さな顔がポカンとした表情になる。
「俺も半信半疑だったし、夢の事だから心配する必要はないかなって思ったんだけど、念には念をと思って誰か知っていそうな奴に片っ端から聞いて回ったんだ」
「まあ、初めは物見遊山みたいな旅だったんだけどね」
ルシルはあまり真剣味のない顔で説明するが、幼いドラゴンたちに気を使っての事なのだろう。
「それでディアーナが渡り歩いていた頃に見聞きしていないかと思って来てみたらさ」
ディアーナは小さく唾を呑む。
「グレイドラゴンをあたしが知っていた……」
「そう。これで確信を持った。グレイドラゴンが存在するという事を」
俺は今一度ディアーナの手を強く握る。
「いつ災厄をもたらすか判らない。だからまだ被害が出ていないうちに対処したいんだ」
「そう……なのね」
ディアーナに俺はうなずいてみせた。
「判ったわ。あたしが場所を案内してもいいけど」
「いや、それだとこの町を守るのにソウキュウだけになってしまう。お前たちは二人いて初めて強大な力を使える。どちらが欠けても駄目なんだ」
「なら……」
「方向と距離、目印になる物を教えてくれれば、後は俺がなんとかする」
俺は荷物入れから地図をとりだして広げる。
「どこがカルデラン火山か、教えてくれないか」
「えっと……」
ディアーナは地図を見て悩む。
「どうした?」
「えっとね……」
「思い出せないとか……」
「ううん」
ディアーナは地図とは違う位置を指し示す。
「この地図狭すぎてカルデラン火山が入っていないの。もっと先、この何倍も先よ」
「ほへ?」
つい、間抜けな声を出してしまった。
どうやら移動だけでもかなり大変な事になりそうだ。