どでかい奴
どうやらマルガリータ王国とソウキュウたち幼いドラゴンは共生できているようだった。
問題が起きても、協力しつつ対処している。
「おお、ゼロ兄ちゃんじゃないか」
「ソウキュウ、相変わらず物騒だな」
「あんなゴロツキに手を焼く訳ないでしょ」
今まさにそのゴロツキども、パプールの町に襲いかかってきた野盗を処刑したばかりのソウキュウだが、けろっとした表情で俺の所に来た。
「町、大きいんだな」
「貢ぎ物を届ける小屋が始まりだったんだけどね、いつの間にかあたしたちに会いたいっていう変な人間が増えてさ」
「それが住み着いた、と」
「そうそう。それで住む人が多くなっちゃって、こんな感じ。それにこの辺りは高台だから見晴らしもいいし海も近いから、船の航行に手助けできるよう、灯台を建てたりしているんだよ」
「なるほどな、今までドラゴンの縄張りだったから、人間も近寄れなかったっていうのがあったんだな」
確かに町の奥には明るく輝く灯台が高くそびえている。
「町は慣れたか?」
「うん、町が大きくなった分人間が多いけどね、賑やかにやっているよ」
「貢ぎ物以上に、楽しくなってよかったな」
「そうだね。実の親とかにいつ殺されるか判らなかった頃に比べたら、生きていいっていうだけで儲けものだよ」
「そっか、そうだよな。なりは幼くても苦労しているんだもんな」
「まあね。それでゼロ兄ちゃんたちはどうしたの? いなくなったと思ったら、急に帰ってきて」
そうなんだ。俺は一度この岩場を離れ、少し旅をしていた。ストーンゴーレムが村を荒らしているとかいう報告があって、その解決のためにとある村を訪れていたりもしたのだが。
「まあ俺たちが行っていた村の話はまた別の機会にするとして、今日はちょっとディアーナに聞きたい事があってな」
「そうなの?」
赤いドレスを着たディアーナがソウキュウの隣で不思議そうに首を傾けていた。
「ディアーナ、各地を渡り歩いていたという君に聞きたいんだが、グレイドラゴンの話を知っているだろうか」
「グレイドラゴン……うん、あの岩棘のドラゴンの事だよね」
「そうだ。やっぱり知っていたか」
ディアーナは少しだけ複雑そうな顔つきになり、ソウキュウがディアーナの手を軽く握る。
「すまない、思い出したくない事だっただろうか」
「ううん、大丈夫」
心を決めたのか、ディアーナは俺の目を正面から見て話す。
「あたしもソウキュウに会うまでは、この小さい身体であちこちを放浪していたの。そのきっかけがグレイドラゴン」
憎しみとも悲しみとも取れる表情。下唇を噛んで、肩が震えている。
「あいつはあまり周りの事には興味がないんだ。グレイドラゴンという種自体が、他の生物に興味を持っていない」
「ふむ」
「だからかもしれないけれど、あたしの家族はグレイドラゴンに殺されちゃったんだよね」
「興味がないのになぜ手を出したんだ? 縄張りにでも入ったとか」
ディアーナは小さく首を横に振った。
「あいつは、あたしたちの事そのものに興味がないんだよ。生き死に含めてね」
「え?」
「あいつはとてもでかいんだよ。あたしたちよりも更に。それこそ成体のレッドドラゴンを踏み潰しても気にならない程に」
「なんだって……」
人間にとって、地面を這う虫のように、踏んだか踏まなかったかも判らないくらいの存在だと。
「やっぱり、ディアーナに話を聞きに来てよかったよ」
これから相手をしなくてはならない奴の事を考えると、俺は背中に冷や汗が流れそうなくらい緊張が走った。