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双姫の町

 それからというもの、ララバイは東にサーベルタイガーが出ればソウキュウたちに退治させ、西に野盗の一団が住み着いたとすればこれを追い払わせたりした。

 俺が強さを認めたドラゴンたちだ。多少の事なら簡単に解決してくれる訳だ。

 これにはララバイ始め国民も大喜びで、幼いドラゴンの少女たちは双姫ふたひめとして崇められる程になっていた。


 そうこうしているうちに、ドラゴンが棲む岩場の近くには人が集まり、いつしかそこそこ大きな町になる。


「ほえぇ……」


 俺は久しぶりにルシルとこの岩場を訪れたが、祭りのように賑やかになった町を見て、開いた口がふさがらなかった。


「いよっ、旅のお方かい? 双姫ふたひめの町、パプールへようこそ!」


 町の入り口にいた門番らしき若い男が俺たちを見つけて声をかけてくる。


「知らない間にこんなに栄えて……。それでもここってドラゴン娘たちのねぐらだろう? 人間がこんなに集まったらうるさいというか、迷惑なんじゃないか?」


 話しかけられたついでに俺は門番に尋ねてみた。


「そんな事ないですよ! 元々ここは双姫ふたひめたちに貢ぎ物を贈るために物を集める倉庫だったんですけどね、それが小さいドラゴンを一目みたいという人が現れまして」

「へぇ。ドラゴンを見たいなんて、命知らずな奴だな」

「それがそうでもないんで。国王様が盟約を結ばれているとかで、双姫は人間には手を出さないとしていたんですよ」

「そうなんだ。なるほどねえ」


 チラリと男の横から町の様子をうかがう。

 町の入り口脇にある広場が俺の目を引いた。家が数軒入るような広さはあるが、なにも建っていない。それどころか地面は焼け焦げて、草一本生えていなかった。


「あの広場はなんだ?」

「ああ、あれはこの町の名物、処刑場です」

「へぇ、処刑場……、処刑場!?」


 いきなりの言葉にびっくりしてしまったが、よく見れば確かに焼けた手錠が転がっていたりもする。


「それが町の入り口にあるって?」

「なんだかすごい事になっているねゼロ」


 俺たちが話している時に、町の中から大袈裟なくらいに騒がしい一団がやってきた。


「お、丁度いい! 今から始まりますよ、パプール名物、公開処刑!」


 門番の男は楽しそうに紹介してくれる。

 一団の真ん中には手を縛られたごっつい男たちが引っ張られていた。


「このろくでなしが!!」

「人殺しーっ!!」

「姫様の財宝を狙うなんて罰当たりめっ!」


 町の沿道からはごっつい男たちへ罵声が絶え間なく浴びせられている。


「なあ、あいつらはなにをしでかしたんだ?」

「えっと、町の外から来た野盗の連中で、この町へ略奪に来た所を返り討ちにしたんですよ。その時の生き残りです」

「ほぉ。野盗の群れか」

「そうなんですよ。パプールも急に栄えてきたんで、結構こういう奴らに狙われているんです。野盗の連中からしたら、町に潜り込んじゃえばドラゴンも出だしができないって思っていたりするらしくて、双姫様たちが町を離れている時によく攻め込んできたりするんですよ」

「へぇ……」


 野盗の生き残りたちが広場に引っ立てられていく。


「双姫様!」

「姫様がいらした!」


 一団に続いて人波をかき分けるように小さな女の子たちが歩いてきた。


「ねえゼロ、あれ」

「お、おお……」


 ソウキュウは青、ディアーナは赤いドレスに身をまとい、おごそかにゆっくりと歩いてくる。


「旅の方、あんたらは運がいい! 町に来た日に双姫様を拝めるんだから! いやぁありがたい! ありがたい! 双姫様ばんざーい!!」


 門番の男は感極まって万歳を繰り返す。町の住人たちも歓声を送って処刑場を取り囲む。


「くっそう、オレらがくたばってもここは人間の富とドラゴンの財宝が眠る町だ! オレら以外の奴からも狙っているんだぜ!!」


 ひときわ大きい身体の野盗が群衆に向かって叫び出す。


「その時はそう遠くねぇからな!!」


 処刑場の真ん中に連れ出された男たちは、手足の拘束を解かれ武器を与えられる。


「なあ、なんで自由にして武器まで渡すんだ?」


 俺は門番に聞いてみた。


「それがこの町の処刑方法なんです。双姫様たちがいない間に悪さをしようとする奴らを、双姫様たちはお許しにならなかったんですよ。自分たちを倒せる猛者なら堂々と刃を向けてこい、って」

「それで武器まで渡すかねぇ」

「双姫様たちの度量の広さですかね!」


 処刑場に野盗の男たちとソウキュウたちが向かい合う。

 周りの盛り上がりは最高潮だ。


「いいよもう。さっさと終わらせよう」


 ソウキュウがあくびをしながら野盗たちに声をかけた。


「な、なにぃ!? 生意気なガキがっ! 泣いてわめいてションベンちびっても知ら……」


 野盗たちがわめきながら襲いかかってくる瞬間、ディアーナの小さな口から巨大な炎が吹き上がり、男たちを消し炭に変えてしまった。

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