顕在化した強さ
階段を上って地上に出た俺たちの前には、前に見た岩場の風景が広がっていた。
「ここに出るのか……」
少し先には俺たちが入って行ったあの岩場の割れ目。
「あそこから少し登ればこの階段があったのか……」
「でもさゼロ、カモフラージュされてよく判らないと思うよ」
「そうだよな、ルシルの言う通りだ。いきなりここは見つけられないよな」
「うんうん」
なんだかルシルになだめてもらって、一応俺は気を持ち直した。楽に行ける道が見つけられなかったのは、仕方がないって。
「それはともかく、ソウキュウ、ディアーナ、どうするつもりだ?」
「えっ?」
「だってさ、お前たちの力を見せるんだろう?」
「う、うん……」
幼い二人は互いに見つめ合う。
ここから激しい戦いが始まるという所だ。
「ほら、来たぞ」
俺の指さす方向には、額に角の生えた狼が何匹かうろついていた。
「ダイアウルフだ。さっき俺が首領を倒した群れが報復に来たのかもしれん。首領を倒した奴を倒さないと、群れの統率者になれない……そう思ったのかもしれないな」
ダイアウルフの生態はよく知らないが、結構な数が集まってきているという事は、きっとそうなんだろう。
「さあ、この岩場を降りたら奴らの相手ができるぞ。どうする、ドラゴンの幼女たちよ」
俺は意地悪くけしかけてみる。
もちろんこいつらで対処できないと思っているから、もしもの時は俺が助けてやろうと思っているのだが。
「うん、判った」
「へ?」
俺の想像とは違う答えに、変な声を出してしまった。
ドラゴンの幼女たちは真剣な顔でダイアウルフたちを見ている。
「お、お前たち、本気で言っているのか?」
「もちろんだよ。こんな事嘘や冗談で言えないでしょう! 行くよディアーナ!」
「うん、ソウキュウ!」
幼女たちが手に手を取って岩場を駆け下りていく。
その姿だけを見れば微笑ましい光景なのだが、その前にはよだれを垂らして殺気立った視線を送ってくる角の生えた狼たちが群れをなしている。
「さあ狼たち!」
「あたしたちの牙の餌食となりな!」
小さな身体で飛びかかったソウキュウたちは、ダイアウルフの首筋に噛みついた。
「ギャワン!!」
悲痛な叫び声を上げて倒れ込むダイアウルフ。
ソウキュウたちは口から血を垂らしながら、薄気味悪い笑みを浮かべる。
「まだ……まだまだだよっ!」
袖口で口元をぬぐって次の獲物へと狙いを付けた。
その殺気に怯えたダイアウルフの動きが一瞬鈍くなる。そこを見逃さずディアーナが飛びかかる。
「っしゃぁっ!!」
ディアーナが右腕を振り回す。その手の先は鋭い鉤爪が光っていて、狼の喉元を切り裂いた。
「クワンッ……」
口と喉から断末魔を漏らした狼が倒れる。その姿を見ると、ディアーナよりも一回り大きい狼だ。
「一撃必殺か……」
俺がつぶやく間にも、二人は爪と牙でダイアウルフたちを葬り去っていく。
「ギャワン! ギャンギャン!」
鳴き声を上げながらダイアウルフたちが逃げ回るが、それよりも早く幼いドラゴンたちは次々と獲物を屠っていった。
「ギュゥ~ン……」
逃げる間もなく最後の一匹が喉元を噛みちぎられて息絶える。
「どうだ人間どもよ。あたしらが本気を出せばこんなもんだぞ」
全身血まみれになりながら、達成感にあふれた笑みをこちらに向けてきた。
「お、おう……。あれだけいたダイアウルフをこうもたやすく倒しきってしまうとは……」
俺の感想がむなしく響くくらい、想像を超えた力をこいつらは持っている。
「どう? あたしたちが強いって理解できたよね?」
「ね?」
この幼い女の子の姿をしたドラゴンを、俺は認めるしかなかった。
確かに強さは本物だ、と。