ドラゴンの力は理解した
俺は適当な大きさの岩に腰掛けている。
それなりに広い場所。奥の方はどうやら崖につながっていて、大きな穴から外へと行けるらしい。
「ねえゼロ、いつまでそうやってんの?」
ルシルの容赦ない声。
幼いドラゴンの娘たちは意識を失ったまま俺の前で横になっている。
いや、横にさせられていると言うべきか。
「それにさ、この子たち手足くらい縛っておいた方がいいんじゃない? そのまま目が覚めたらさ、またなにしでかすか判らないじゃん」
「まあ大丈夫だ。手加減の加減はなんとなく判ったから」
「結局手加減してんのね」
「いや、俺だって本気だったよ。本気で殺す直前だった」
俺の拳はほとんど手加減できなかったから、相手が本物のドラゴンじゃなかったらきっと殺していただろう。
相手のタフさに俺が助かった訳だ。
「とはいえ、そろそろ目を覚ましてもらわないとな」
俺は中腰になって翼の生えた幼女たちの頬をつつく。
ぷにゅぷにゅするできたての餅のような柔らかい弾力が俺の指に伝わる。
「う……ううん……」
「お、ようやく目が覚めたか?」
「ん……はっ!?」
目を開けたソウキュウが驚いて起き上がろうとするが、俺の人差し指が頬に当たっている状態だったので、ほっぺたをぐいっと押される顔になった。
「ほぎゃっ」
「おお、すまんすまん」
俺は手を引っ込めると、また岩に座り直す。
「おはよう小さなレディたちよ」
「なっ……」
ソウキュウは俺の言葉にいらだつ様子を見せたが、となりに寝ているディアーナを見て状況を察したようだ。
「お、お前……あたしたちになにをした!」
「別になにも……あ」
「ひいっ、なにかしたのだなっ!?」
小さい身体を縮こまらせて細い腕で自分を抱きしめる。
「うーん、なにかしたと言えばしたんだが」
「そんなっ!? こんないたいけな幼子を手にかけて、あれやこれや口では言えない事をしたのだろう!」
「うーん、まあ、あんまり褒められた事じゃあないが」
「やっぱりぃ~~~!」
悲嘆に暮れた顔で世を嘆く幼女。
「まあ俺がお前たちの頭を思いっきり殴ったからな。幼い子供になんて事をするんだ、って言われたら、それは仕方がない話なのかもしれないが」
「へ?」
きょとんとした表情でソウキュウが俺を見る。
「それもお前たちが襲ってきたんだからな、仕方がなく、だなあ」
俺がなんとか取り繕うとしている所でルシルが俺の手を押さえた。
「ゼロ、これ以上言い訳しても、小さい女の子をぶん殴ったのには変わりがないから」
「ルシル~、そうは言ってもだなあ」
「うんうん、判る、判るよ。でもねゼロ」
「お、おう」
ルシルは真面目な視線を俺に向ける。
「絵面がよくない」
「はうっ!」
俺は衝撃を受けて座っていた岩から転げ落ちた。
「でもさあ、このドラゴンの幼女たちが力を合わせればさ、あれだけの威力が出せるんだぞ」
開き直って立ち上がった俺は、ドラゴンの幼女たちを指さす。
もうディアーナも目覚めて起き上がっていた。
「こいつらの威圧感があれば、あんな中途半端な魔獣どもなんかこの辺りから逃げ出すだろうに」
「そうだけどさ」
「こいつらは確かに魔力も高くて賢いかもしれないけど、ドラゴンとしてはまだまだ半人前。こいつらの親みたいに縄張りにいる魔獣をビビらせて逃げ出させるほどの力は、単独では持っていないんだよ」
「まあそうよね」
ルシルもその点は理解してくれているみたいだ。
「だからさ、俺はこの地を平定するのに、ドラゴンを追い出してララバイたちが住んで国土にするかどうしようか考えたんだよ」
「へぇ。それならあのドラゴンたちを追い出せばいいじゃん」
「でもさ、こうやって見たらこいつらも一緒になれば結構強いだろ?」
俺と戦って生き残っているんだから強さはたいしたもの。
「人口が減っている所で領土拡張するよりはさ、ここはこいつらに任せちゃうのもいいかな~、なんて」
俺はルシルとセシリア、そしてララバイの顔を見た。
ルシルはあきれ顔。セシリアは妙に納得をした表情をしているが、肝心のララバイが。
「ゼロさん、それでしたらこの子たちをマルガリータ王国で預かるというのはどうでしょう」
こんな変な事を言い出すとは思ってもみなかった。
ララバイを見る俺たちの目は、きっと点になっていただろう。