青と赤の掛け算
岩の割れ目から少し広い場所へと出た俺たちの前に、無防備にも横たわっている人影があった。
目の前で丸くうずくまっているのは、赤い髪を無造作に束ねた幼い女の子。着ている服はソウキュウと同じような鱗模様のワンピースだが色は赤い。
「う……ん?」
赤い女の子は眠たそうな目をこすりながらゆっくりと起き上がり、大きく伸びをする。
「ふわぁ~あ、よく寝た~」
背伸びをしたかと思ったら、幼い女の子は割れ目の所にいる俺たちへ視線を向けた。
「ソウキュウ、それが思念伝達で言ってた人間たちね?」
なに? 思念伝達で連絡を取り合っていたというのか。
俺たちに緊張が走った。少なくともソウキュウはブルードラゴンで、この幼女もレッドドラゴンの可能性がある。
「おやぁ、警戒しているね? 汗の匂いが変わったよ」
赤い幼女は赤く光る瞳で俺たちを見ていた。
「その警戒は正しい、とだけ言っておくね」
「ほう、そのなりで俺たちを相手にできると思っているのか」
「そうだね、あたしたちなら人間と話くらいはできると思うよ」
「話、ねぇ」
鋭い目つきのまま、赤い幼女は俺たちを試すように小さく首をかしげる。
ゆっくりとソウキュウが赤い幼女のとなりに移動した。
「そうやって見れば仲のよい姉妹にも見えるな」
俺は冗談を言いながらも警戒を怠らない。なぜならば、この幼女たちからとてつもない力の波動が感じられたからだ。
「単体ならそう恐れる事もないと思ったが、二人一緒にいる時の威圧感……。なるほどドラゴンの素養を見た気がするな」
知らない内に俺の頬から汗が流れていた。
「ゼロ、この子たち……」
「そうだな」
ルシルの声も少し力がこもっている。
「まともに戦ったらただじゃ済まないよ、きっと」
「俺もそう思うよ」
俺はゆっくりと剣を抜く。
「手加減できそうもないくらい強い。俺には判る……」
幼女たちが少しだけ腰を落とす。明確に戦闘態勢へと移行している。
背中から、小さいながらもドラゴンの皮翼が生えてきた。
「行くよディアーナ!」
「うん、ソウキュウ!」
幼女たちは地を蹴ると、一気に俺に近付いてくる。
子供が駆け足をする速度ではない。ドラゴンの翼を使って高速で飛んできた。
「しゃぁっ!!」
「けぇいっ!!」
ソウキュウが長い鉤爪を振るったかと思うと、ディアーナと呼ばれた赤い幼女が蹴りを繰り出してくる。
俺は剣で爪を受け流し、後ろに飛び退いて蹴りをかわす。
「速い!」
横に跳んだ俺に二人とも食らいついてくる。爪と蹴り、気を抜く棘の付いた尻尾が襲ってくる。
「ちょっ、ま」
俺は避けながらもなんとか言葉を投げかけた。
「待てっ!」
だが思った通り、二人の反応はそれを拒否するものだ。
「待てないっ!!」
「食らえっ!!」
二人の攻撃は息をもつかせず、連動して効果を上げている。
俺も本気にならなければならないほどに。
「ええいっ!!」
「そりゃぁ!!」
二人が飛び込んで来て目の前に迫る。
「いい加減に……しろっ!!」
俺の両拳がソウキュウとディアーナの頭にそれぞれヒットして、二人が顔から地面に突っ込んだ。
「ほら、だから言っただろう。手加減できないって……」
地面にめり込んだドラゴンの幼女たちは、意識を失って動かなかった。