狭いながらもどうにかこうにか
ソウキュウが引き入れたレッドドラゴンを巣穴から追い出すために、俺たちはそいつのいるねぐらを目指す。
崖の上にある岩の隙間が、どうやら中に続く道になっているようだ。
「この割れ目か?」
「そうよ。ここから入っていくの」
「ちょっとした隙間だから、外からは判らないな……。ドラゴンはどうやって中に入ったんだ?」
この隙間は俺たちでもぎゅうぎゅうになってしまいそうなくらい狭く、あんな巨体が通れるはずもない。
「ここからじゃ見えないけど、崖の中腹に大きな穴があるの。そこからドラゴンは出入りできるんだよ」
「そうか、船で海側から見たら大きな洞窟が見えるのか」
「うん。でもそこも確度によっては穴が見えにくくなるから、隠れ家としてはうってつけなのよね」
「へぇ。ララバイはこの近くでドラゴンを見たっていう報告なんてなかったのか?」
俺は興味深そうに聞いていたララバイに尋ねてみる。
この地域を治めている国だからな。
「いえ、この辺りはドラゴンが出るという噂はありましたが、領土として手を伸ばそうとはしていませんでしたので。運河の建設も、ここからだいぶ離れた場所でしたし」
「そうなのか。それでも縄張りに入ってしまったっていう事になると、ドラゴンの縄張り意識っていうのは桁外れにでっかいんだな」
「本当ですよ、それでこの騒ぎですからね。国民にも多大な被害が出ましたし」
ララバイがため息をついてうなだれる。
「ブルードラゴンは倒したから、この中にいるレッドドラゴンをどうにかすれば、この辺りの力関係も変わってくるからな。それから開拓を始めるとしようか」
「ええ、そのためにもこの地域を平和にしなくてはなりません!」
「お、勢いが付いてきたな。うん、頑張ろう」
「はいっ!」
責任を感じているのか、ララバイの目には力強い光りが灯ったように思えた。
「それじゃあいいかな? そろそろ行くよ」
「ああ、先導を頼む」
「判った、付いてきて」
ソウキュウは小さくうなずくと、岩の隙間に身体を滑らせていく。
「剣を腰に差したままでは通れない狭さだな」
俺は鞘ごと剣を腰から外して左手に持つ。身体を横向きにして割れ目に入っていった。
「おお、結構狭い……」
身体のあちこちを壁にすりつけながら隙間を進む。
ソウキュウの後に俺が続き、ルシル、セシリアがついてくる。ララバイはしんがりで背後を警戒してくれている。
「なあソウキュウ、ずっとこの狭さなのか……?」
俺が話しかけるとソウキュウが立ち止まった。
「おっと」
「ふにゃん!」
剣を前につきだした状態で進んでいたその左手が、ソウキュウの身体にぶつかってしまう。
幼い身体つきながら女の子の柔らかい感触が伝わってきた。
「あ、すまん」
「ちょっ、あっ……」
俺は手を引っ込めようとするが、剣がつっかえて思うように抜けない。
「あ、ちょ、やめっ……」
俺が動こうとすればするほどソウキュウが変な声を上げる。
「わ、悪い。暗いからよく判らないけど……なんか悪い……」
「ほ、ほにゃぁ……」
どうにか俺が手を引き抜いた時には、荒い息づかいのソウキュウが暗がりの中で俺をにらんでいた。
「に、人間の姿っていうのは不便よね!」
「なんか怒っているのは判るけど……すまん」
「もういいけど!」
それだけ吐き捨てて、ソウキュウはまた隙間を進み始める。
「ねえゼロ大丈夫? 進んでないみたいだけど」
後ろから様子の判らないルシルたちが聞いてくるが、俺もどう説明したらいいか判らない。
「だ、大丈夫だ。問題無い。ちょっと詰まっただけで、もう問題は解決した」
「そう? ならいいけど」
ソウキュウ変な声を聞かれていたかは知らないが、どうやらここは上手くやり過ごす事ができただろうか。
「じゃ、早く行って!」
俺の腰をルシルが蹴飛ばしてきた。
こいつ、聞こえていたんじゃないか!?
俺は腰の痛みを我慢しながら、割れ目を進んでいった。