一応は正当な理由で生き残り
浅慮。端的に言えば、考えが浅いって事だ。
ブルードラゴンのソウキュウは、魔力も能力もずば抜けているかもしれない。
だが、言ってもまだ子供。世間の荒波に揉まれていない箱入り娘だ。
「確かに、親兄弟から冷たくあしらわれてもいただろう」
「冷たくだって!? あたしを殺そうとしたのに、冷たい程度で済まされると思うの!?」
「いや、いくら自分よりも出来のいい子供だとしても、親が子供を手にかけるなんて」
「じゃあこれを見てよ」
ソウキュウが示す先には、白骨が放置されていた。
「これは?」
「あたしの兄や姉」
「兄弟って事か?」
「そうよ。あたしほどじゃなかったけど、親よりも能力が上だった連中。それのなれの果てよ」
「お、おう……」
俺は息を呑んでよく調べてみる。岩が積み上がっているだけだと思っていたそこかしこに、ドラゴンの小さな骨が転がっていた。
「ウォーテール、あいつ自分の子供をこんなにも殺していたのか」
「そういう事。あたしが手を打たなかったら、こうなってたって証」
「ドラゴンって怖いな……」
いろんな意味で、俺はドラゴンの生態に恐怖を感じてしまう。
「だからあんたらがあいつらを倒してくれた事には礼を言うわ」
「お、おう……。だがな、だからといって棲み家にレッドドラゴンが居座るのは、流石にまずいだろ?」
「ま……まあね」
ソウキュウはばつの悪そうな顔をこちらに向ける。
「だからさ、あたしはもうこんな所にいるのは止めようと思うんだけどさ」
「それがいいかもな」
「でもさ……親たちが残していった財宝がね、このままレッドドラゴンの物になっちゃうのがちょっと惜しいかなってさ」
「財宝?」
この話になるとソウキュウの顔が少しだけ計算高いものになった。
「別に~、あたしは財宝なんてどうでもいいんだけどさ、どうしてもって言うなら、ねぐらに案内くらいはしてやってもいいんだけどな~」
こいつ、あからさまに財宝を俺たちの力で取り戻そうとしているな。
「でもさ、それってお前の親が集めた宝だろう? 別にお前にとっては関係ないんじゃないかな。それよりもレッドドラゴンなんてほっといてさ、お前はお前の人生……ドラゴン生を過ごしたらいいと思うぜ」
俺は気の利いたセリフを吐いたつもりで、親指を立ててみせる。
「いやいやいや、そこではいそうですかって行く訳ないでしょう!? ドラゴンの財宝だよ!? どれだけの価値があると思ってんの!?」
「価値って、別に俺は財力あるし、宝がなくてもどうとでもなるからなあ」
「そ、そそ、そうなの!? ドラゴンが数百年貯めた財宝だよ!? ちょっとやそっとの量じゃないよ!? 人間の国なら買えちゃうくらいだよ!?」
「ふぅむ……」
俺は少し悩んでみせた。
実際、国は力で建国したし、国民を豊かにする方法は財宝に頼るような一過性のものであってはならない。継続的に豊かになれる方法を探すべきであるし、突発的な一時しのぎでは立ち行かない事は承知の上だ。
「まあ、俺は財宝とやらに興味はないんだがな」
「えーー!?」
俺は本心で言ったつもりだが、ソウキュウはこんな無欲な人間を見た事がないのだろう。異常なほどに驚いていた。
「ゼロってそういう所あるよね~」
ルシルが他人事のようにつぶやく。
「使い切れない宝なんて、持っていた所で意味ないしな」
「そ、そんなぁ……」
ドラゴンの少女は人間の姿のまま、ぺたりと座り込んでしまった。
「でもまあ、この辺りの治安はあまりよくないからな」
「へ?」
「レッドドラゴンは周囲の圧力が弱いのか、この辺りの魔物が変に活性化しているのに、ちっとも抑えにならない」
「は、はあ……」
ソウキュウがきょとんとして俺の事を見ている。
「かと言って、この辺りに人間たちが町を作ったとしてもレッドドラゴンが黙っちゃいないだろうな」
どうやらルシルやセシリア、ララバイは俺の意図を汲んでくれているようだ。
「レッドドラゴンを討伐してこの一帯を平和にする。それであれば俺も手を貸そう」
ルシルたちは納得している。そしてソウキュウも俺の言葉を聞いて、一気に表情が明るくなった。