浅慮で居場所を乗っ取られ
一応、協力を取り付けた形になるので、俺はソウキュウの言い分を聞くようにした。
ソウキュウは積み上がった岩に寄りかかるようにして、ぶつくさなにかを言っている。
「ソウキュウ、お前は俺たちを憎んでいない。表向きそう捉えていいな?」
俺は大事だがぶしつけな質問をしてみた。
「ああそうだよ。あいつらは親兄弟とはいえ、あたしを認めていなかった。それどころかあたしを邪魔者扱いにして、この縄張りから追い出そうと……いや、殺して亡き者にしようとしていたんだよ」
「俺が思っていたよりも過激だな」
「それがドラゴンってものさ。自分の都合のいい奴は可愛がるが、異質な者はそれがたとえ優秀だとしても、自分たちとは相容れない相手だからな、排除の対象なのだろうさ」
「そんなものなのか……」
「そんなものさ」
ブルードラゴンの一家と言っても、いろいろと問題があったみたいだ。
もとよりドラゴンは独立機運の高い種族。骨肉の争いは日常茶飯事。仮にソウキュウの言う事が正しいとして、ウォーテールたちにしてみれば、自分よりも賢く、自分たちの存在を脅かす者であれば、まだ力の弱い内に排除しようという気持ちにもなるらしい。
「子供よりも自分を優先すると、そうなるのかもしれないがな……俺にはその感覚、あまり判らないが」
俺の独り言を聞いたルシルが、俺の腕に抱きついてくる。
「家族や血縁というのは人間の社会で形成される物だから、ドラゴンにはその常識が通用しないのよ」
「それは長命という事も影響しているのかな」
「そうね、人間は短命だから、早く次の世代を育成しなくちゃって思うかもしれないし、生まれた子供は育てなきゃって思うかもしれないけどね」
ルシルは俺にしがみつきながら、やけに身体をすりつけてきた。
「そこは魔族もドラゴンと同じかも。長命だからこそ、子孫よりも自分の方が大切に思ったりもするし、子供なんて後からいくらでも産める、それだけの時間があるからね」
「お、おお……。そんなもんなのか」
「そんなもんよ」
寿命の長さが育成についての意識も変わってくる、そんなものなのだろうか。
俺はできたら自分の子供が生まれたとして、大切に育てようと思うが。ドラゴンや……魔族は違うのかと、少々戸惑いを隠せなかった。
「あー、ごほん! そ、それでだ」
俺は咳払いをしながらその場をとりつくろう。
「ウォーテールは家族を大切にしている様子だったが、それはお前……ソウキュウには向けられない愛だったのか?」
「うっ……」
ソウキュウは一瞬言い淀む。
それもそうだろう、お前は愛されていなかったのか、と聞いたようなものだから。
「そうだよ。あたしは家族みんなにうとまれていた。邪魔にされていたんだ。だからあんたらがあのブルードラゴンたちを討ち滅ぼしてくれて、せいせいしたってもんだ!」
強がりなのか、ソウキュウは強気の発言で押し切ろうとする。
「だからあたしはこの根城をあたしの所有物にするため、ブルードラゴンたちを追い出してやったんだ!」
「追い出した?」
「そう、ここに別のドラゴン、レッドドラゴンを呼び込んでやったのさ!」
ソウキュウは得意気に語った。
「いやいや、他の奴を引き入れたら、結局お前はそいつの言いなりじゃないか」
「あっ!?」
ソウキュウはなにかに気付いたようだ。
「そうしたらレッドドラゴンはこの縄張りを、お前に返してくれたのか?」
俺の言葉を噛み砕いて理解しようとするソウキュウは、顔がどんどん青ざめていった。
「レッドドラゴンは、返してくれない……」
「だろう? それでは赤の他人なだけあって、今の方がよっぽど都合が悪いんじゃないか?」
「あー……」
短絡的というかなんというか、ブルードラゴンのソウキュウは、自分の犯した事に今さらながら気付いたようだ。