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かりそめの人間の姿

「あー、おほんっ」


 俺はわざとらしく咳払いをする。

 ソウキュウにはルシルがマントを掛けてくれていた。


「とりあえずソウキュウ、お前がブルードラゴンだという事は、えっと、一応理解した」


 俺は威厳を保てるように、あえて重々しく言ってみる。

 だが、涙目で俺を見るソウキュウと、なぜか俺を非難する視線を送るルシルとセシリア。ララバイはどうしたらいいか判らないようで、ハラハラしていた。


「一応理解した……つもりだ」

「ま、まあ、あの……」


 ソウキュウは背筋を伸ばして立ち、健気に俺を見る。目には涙を溜めているが、口をへの字に結んで泣くまいとしていた。


「あ、あたしも、ゆ、勇者という奴が人間にしては変態趣味である事は理解したぞ」

「いやちょっと待てよ! 俺がほっといたらお前はドラゴンに変化へんげするつもりだったんだろう!?」

「当然だろう!? ドラゴンを恐れもしない連中に怒りの鉄槌を下すのに、この小娘の姿では力不足であるからな!」


 目を剥いてソウキュウが俺に食ってかかる。ルシルに掛けられたマントの中で、いつの間にか鱗鎧スケールメイルへと衣装を変えていた。


「あたしが本気になれば人間なんぞ簡単にひねり潰してくれようものを!」

「あー、そう考えると、ドラゴンの姿の時には衣服はまとわないんだよな?」

「え? ああ、まあそうなるな。ドラゴンに見合った服という物が無いからな」

「だったら変化した姿の裸を見られた所で、そんなに恥ずかしがることはないんじゃないか?」

「なっ!?」


 ソウキュウは顔を真っ赤に染めてわなわなと震える。


「あー」


 追い打ちをかけるようにルシルも反応した。


「言われてみれば、ドラゴンって裸だもんね。本当の姿じゃないんだから、人間の格好で裸になった所で、恥ずかしいはずもないんだよね~?」

「な、なっ!?」

「あ~あ、マント掛けてあげても意味なかったかー」

「なななっ!?」


 ソウキュウは青い鱗の鎧を身に着けてはいるが、それでもルシルに掛けてもらったマントを胸にかき抱く。


「なーんてね。いくらドラゴンと言っても、ゼロにあんな幼女の裸なんか見せられないよ」

「いやいやそこで俺を引き合いに出すなよ!」


 ルシルの衝撃発言に俺も思わず口を挟む。


「ぷっ!」


 ソウキュウがこらえきれずに噴き出す。


「ぷっ……ぷはっ、ぶはははは! あーっはっはっは! おかしい! なんでこんなおかしい人間にあたしは真剣に悩んでしまったのだろう!!」


 なにか突然ソウキュウが笑い出した。それも理不尽極まる言葉を吐いて。


「人間、あんたは面白いよ! あたしはもう戦う気力も失せた!」


 あっけらかんと笑い飛ばすソウキュウ。俺の耳の奥は痛みを感じていないという事は、敵感知センスエネミーが発動していないという事。

 ソウキュウに敵意はない。


「いいだろう、あたしの負けだよ。あたしを殺さないのなら、あんたらに協力をしてやらなくもない」

「なんだ面倒くさい物言いだな」

「そうかい? それとも命を懸けた戦いをお望みかい?」


 ソウキュウは右手だけドラゴンの腕に変えた。

 その右手の指を動かして、挑発するような仕草をする。


「いや、止めておこう。ブルードラゴンの縄張りについて、俺も聞きたいことがあるからな」

「ほう?」


 俺は正面からソウキュウの顔を見た。


「会話の前に殺してしまっては、得られる情報も少なくなってしまうからな」


 ごくごく普通に話をしているつもりだが、ソウキュウにとってはそうでもなかったようだ。


「う、ぐぐ……」


 ソウキュウの顔には、あからさまに冷や汗が流れていた。

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