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ブルードラゴンの小娘

 辺りは水の涸れた荒野。岩がむき出しになっている地面はもろく、風化が始まっている。

 海は近くにあるが、それも切り立った岩場の崖を降りた所で、普通の人間が落ちたらまず助からない高さだ。

 上空には岩場に巣を作る海鳥がグルグルと円を描くように飛んでいた。


「こんな荒れ果てた場所で……」


 俺たちが遭遇したのは、青い服を着た少女だ。


「服、といってもこれは……爬虫類の鱗に似ている。いや、ドラゴンの、か?」


 少女の頭には小さな角があり、腰の辺りから尻尾のような物も見え隠れしている。


「なあキミ」


 俺は少女に話しかけた。

 少女は少し驚いた様子だったが、唇を噛みしめてこらえているようだ。


「キミはブルードラゴンなのか?」


 俺は単刀直入に聞いてみる。ララバイが慌てたように俺と少女の間に割って入った。


「ちょっゼロさん、いきなりこんな小さな女の子に向かって、こんな子がブルードラゴンな訳ないですよ」

「そうなのか?」

「そうですとも! ドラゴンワームといえば蛇みたいなもの。人間の姿に変化へんげできるなんて聞いた事がないです」

「ふぅ~ん」


 ララバイは俺の反応には気にしないで、少女に向かって両手を広げながら近付いていく。


「お嬢ちゃん、大丈夫。もう怖くないよ。こんな所に一人で怖かったよねぇ」


 そりゃあ確かに荒野へ女の子がひとりで置き去りになっていたら、助けるのも当然かもしれない。


「ねえゼロ、あれがドラゴンだとして、ララバイ食べられちゃったりしないかな?」

「平気じゃないか? 別に根拠はないけど、あいつも一応勇者パーティーに所属していた冒険者だったからな。まあ俺とは違う勇者パーティーだったから、その頃の冒険がどういう物だったかなんて知らないけどさ」

「ま、そうね。腕の一本くらい喰われても、私が治癒でどうにかできるからね」

「そういう事。その時は頼んだぜ」


 ルシルは両肩をすくめて呆れた顔をする。

 俺たちがそんな話をしている間に、ララバイは少女のそばにまで近付いていた。


「さあ、もう大丈夫。この辺りにいる凶悪な魔獣からも私たちが守ってあげるからね」


 少女は笑みを浮かべて小さくうなずく。


「よかろう、ではなく、えっと……」


 少女が咳払いをして居住まいを正す。


「わ、わーい、おにいちゃんありがとう! ソウキュウ、とっても怖かったのー」

「お、おお、そうかそうか! ソウキュウちゃんって言うんだね。そうか、怖かったよねぇ」


 棒立ちになっている少女の肩をララバイが優しく包む。


「あーララバイ」

「はい?」


 少女を抱きかかえている状態でララバイが俺たちの方に振り向く。

 丁度そこは、少女が口を開けてララバイの首筋に食らいつこうとしていた。


「ほらな!」


 俺は剣の鞘ごと腰から抜いて、鞘の先で少女の額に突きを入れる。


 パッカァーン!!


「あいったぁ!!」


 首をのけぞらせて吹っ飛ぶ少女。

 青ざめた顔でララバイは腰を抜かしていた。


「だから言ったじゃないか、こんな所に女の子がひとりでうろついている訳ないって」

「く、首……大丈夫でした?」


 ララバイは自分の首に傷がないことを必死になって確かめている。


「まだ噛みつかれる前だったからな、大丈夫だろう。酸の唾液でも垂らされていなければ、だけどさ」

「ひぃっ……」


 ララバイは懐から手ぬぐいを取り出し、首をゴシゴシこすっていた。


「それで?」


 俺は鞘ごと剣を腰に差し、少女の方へと向き直る。


「いったたたた……。いったいいきなりなんなのさ!」


 さっきとはまったく異なる口調、声で少女は返事して起き上がった。


「あたしはソウキュウ。あんたが言うようにブルードラゴンの子供、ドラゴンワームだよ。ドラゴンベビーとも言われているけどさ」

「ほう。でもただのドラゴンワームがどうして人間の姿なんかに」

「あたしはボンクラの親兄弟とは違ってね、生まれながらにして高い魔力とそれを使いこなす頭脳をもっていたんだよ」

「その能力の中に人間の姿へメタモルフォーゼがある、と?」


 少女、ソウキュウは俺たちを見下すようにうなずく。


「そうよ、人間はこの姿になると途端に気を許して近寄ってくるからね。そこをガブリと……」

「ひぃっ」


 ソウキュウのひとにらみでララバイが小さく悲鳴を上げて後ずさる。


「初めから見抜かれているとは思わなかったけどね。あんた、相当の手練れだね?」

「さてね。別に俺はキミがどう思おうとどうでもいいんだけどな」

「言うね……。それはあたしが本気になった姿を見ても言えるかな?」


 ソウキュウの周りに砂や小石が竜巻のように渦を作った。


「さあ、人間よ! あたしの実力をその目に焼き付けて、怯えて眠るがいい!!」


 砂の渦がだんだんと濃くなってソウキュウを取り囲む。


「あー、そういうのいいから。Sランクスキル発動、剣撃波ソードカッター。とりあえず砂だけ吹き飛ばせ」


 俺の放った衝撃波がソウキュウの周りに飛んでいた砂を弾き飛ばし、竜巻を消し去る。


「ひゃんっ!」


 そこにはソウキュウがメタモルフォーゼをしようとして鱗の服を解体した状態、言い換えればすっぽんぽんの姿で立っていた。

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