狼の首領と一騎打ち
大きなダイアウルフが俺の前に立ち塞がる。
「ほう、群れをけしかけずに首領が直々に出てくるか」
群れの中で一番強いのだろう。大きな角が生えたダイアウルフの中でも、ひときわ大きく体格もしっかりした狼が、俺をにらんでいた。
銀色の毛並みが風になびいて流れ、鋭い爪が大地を踏みしめている。
うなり声が漏れる口からは呼気が目に見えるくらいの濃さであふれていた。
「いいだろう。俺も無駄な血は求めていない。逃げろと言って逃げる事もないだろうからな。お前一頭で済むならそれが一番被害も少ないだろう」
俺の剣はその先がダイアウルフに向けられている。人間と狼だが、不思議と意思が通じているようにも感じた。
「一騎打ちだ。覚悟はいいな」
「グルルル……」
ダイアウルフは鼻に皺を寄せてゆっくりと俺に近付いてくる。
毛に覆われて見えないはずだが、足の筋肉に力が込められているのは判った。
「来るか」
「グワゥ!!」
一声吠えて狼が俺に飛びかかる。
「避けてもいいが、真っ向から相手するのが礼儀だろう」
俺は剣を横に構えてそのまま斬りつけた。
金属のぶつかる高い音が響く。
「ほう!」
俺の横薙ぎに斬った剣をダイアウルフが咥えていた。
「俺の剣を噛んで受け止めるとはな!」
そのままダイアウルフは巨体の勢いで押し込んでくる。
並みの戦士ではこの圧力に耐えられず倒れてしまうだろう。そうなれば狼の勝ち、倒れた人間の喉笛に噛みついて戦いは終わる。
そうして何人もの相手を倒してきたのだ。ダイアウルフの勝ち筋は洗練されて見事だった。
「相手が俺でなければ、な」
俺は咥えられた剣でそのままこらえる。俺が剣を横に構えそこに狼が食らいつくも、俺は微動だにしない。狼の勢いと体重を加えても、俺が腕の力で受け止めているのだ。
ダイアウルフは目を見開く。時分がどうなっているのかが理解できない様子で。
「そうだろうな、今までならこれでお前が勝っていたのだろう。お前の大きさと重さと勢いで。だが俺は動かない。この力が百倍強ければ、俺もよろめくぐらいはしただろうな」
剣を咥えた狼は自分の失策に思いが至ったようだ。
自分が剣を咥えたまま、宙に止まっている状況がいかに異常であるか。相手の力が自分の想像以上のものだったのかを。
「さらばだ、狼の長よ」
俺はそのまま剣を押し込み、横に振り抜く。
剣はダイアウルフの口を裂き、喉を、首を、胴を斬り割いた。
上下に分かれた狼の身体が一度宙に舞い、地面に落ちる。
「ふぅっ」
溜めていた息を吐いた俺は、剣を振って血糊を吹き飛ばす。
目の前には巨大なダイアウルフが二つになって横たわっていた。
「お前たちの首領は倒した。このまま消え去るのであれば見逃してやる」
ダイアウルフたちは俺の言葉が理解できるかどうか判らないが、一撃で群れのボスを倒した俺に恐怖しているようだ。
「去れっ!」
俺が一喝すると狼たちはバラバラに散って逃げていく。
ブルードラゴンの縄張りに行くまで、同じような事がどれだけあるのかと考えると、少し不安になる俺だった。