水を吸い込ませない
ウォーテールは流れてくる水に意識を取られる。
今まで渇きに渇いていた喉を潤すために、命をつなぐために起こした本能が、命を失う結果となるのだ。
「ついに背中を見せたな、ウォーテール!」
「しまっ……!?」
俺はウィブの首にまたがりブルードラゴンの背後から一撃を食らわす。
「いけぇっ! Sランクスキル発動っ! 剣甲突!! 突き抜けろっ!!」
俺が剣を突き出すと細い槍のような衝撃波がブルードラゴンの背中を襲う。
「我としたことがぁっ!! しかぁし!!」
ウォーテールは身体をひねり尻尾を立てる。棘だらけの尻尾が俺の放った衝撃波を盾となって防ぐ。
「グゴァァアアアァァァ!!!」
ブルードラゴンの悲鳴が響き渡る。尻尾が衝撃波で引き裂かれ、根元から千切れて飛んだ。
かろうじて残っていた体液が空中にまき散らされた。
「水を……水……っ!!」
俺たちと戦う事をあきらめたのか、ブルードラゴンは運河に向かって急降下を始める。
「ウィブ、追ってくれ!」
「承知っ!!」
俺たちも相手に合わせて降下を始めた。
「水っ! 水水みずぅぅうううぅぅぅーーー!」
水を求めながら空を一気に降っていくブルードラゴン。切れた尻尾からはまだ血しぶきが噴き出している。
「させるかよっ! Sランクスキル発動、剣撃波! 切り裂けっ!」
俺の放つ衝撃波がブルードラゴンの背中を切り刻む。剥げた鱗と血が辺りに散らばるが、それでもウォーテールは必死になって水を求める。
「ゼロ! このままじゃあ水の中に入っちゃうよ!」
「それを阻止しなくては!!」
俺は奴の進行方向に衝撃波を送るが、それすら無視して突っ込んでいく。俺の衝撃波に頭からぶつかるものだから、顔にも無数の傷を作る。
それでも奴は止まらない。
「どうしよう! 水を吸収したらまた元気になっちゃう!」
「奴が止まらないなら……」
ウォーテールはどんどん運河に近付いていく。運河には流れた水があふれていた。
「近付けさせないためには……」
「侮ったな人間ども! 直接触れずとも、我は水を吸い取る事ができるのだぞ!」
傷だらけの顔を俺たちの方へと向けたウォーテールは、血まみれの中で笑っているのだろう。
「コォォォ……」
ブルードラゴンの口が小さく開く。ブレスを吐き出す予備動作だ。
同時に運河の水を吸収しようというつもりだろう。
「これでどうだっ! Sランクスキル発動、凍晶柱の撃弾! 凍てつく柱よっ!」
「甘いわぁ! それしきの氷で我が恐れると……ん!?」
俺の放った氷柱はドラゴンの脇をすり抜け、運河の中に突っ込んだ。
「うおぉぉぉ!」
俺は氷柱に魔力を注ぎ続ける。氷柱を中心に運河の水が凍り始めた。それが何本も、何カ所も。
「ば、馬鹿なっ!」
「氷でも水分。だが、お前に吸収できる物ではなさそうだな、ウォーテールっ!!」
「くっ、くそぉっ!!」
口を開けた中で生成しかけていたドラゴンブレスが消えてなくなる。吸収ができずブレスの元が作れなくなっているという事。
「クソがぁぁああぁぁぁぁ!!」
止まって振り向いたのがあだになった。俺は高々と剣を掲げ魔力を込める。その剣がウォーテールの腹を切り裂いていく。
「グゴァァアアアァァァ!!!」
生命を維持するための水分すら失っていたのか、ドラゴンの腹は砂漠のようにサラサラと粉状になって風に流されていった。
「こ、こんな所で……我が……我らが……」
身体や顔にヒビが入っていき、足の先や翼の先から砕けて散り始める。
「ふ、ふざけるな……我らの居場所に土足で踏み込んできたのはおのれらの方であろうに……なぜ、我らが……このような仕打ちを……」
粉々になりながらも恨みつらみを吐き続けるウォーテール。
「だからこそ、対話を求めたのだが」
「クソッ……我らが……」
「もはや聞こえてもいないか……」
きっと耳が聞こえなくなっているのだろう、俺の言葉はウォーテールには伝わっていないようだ。
「おのれ……おのれぇ……」
カサカサに乾いた声が風に流されていく。
「ゼロ、どうして粉みたいになっていくのかな」
「よく判らないが、水を操るドラゴンだ。最後の攻撃に自分の持てる全てを賭けたのかもしれない」
「身体中の水分も使って?」
「きっとな」
最後の粉が舞い散った時、そこにドラゴンの姿はなかった。