飲みたければ飲め
乾く乾く、とにかく乾く。
それは俺たちもそうだが周りの空間全てがそうだった。
土はヒビ割れて草木は枯れ果て、造りかけの運河には水の跡だけが残っている。
乾燥しすぎて太陽の光がギラギラと俺たちを照らす。
「それもこれも、このブルードラゴンが吸収するからだ……」
ブルードラゴンは周囲の水分を自分の身体に取り込む事ができ、ドラゴンブレスとかに形を変えて攻撃する。
「だが、嵐をつかさどるブルードラゴンと言えども、その水がなければ戦いどころではないよな」
俺たちの作戦としては、どうにか奴の攻撃をしのぎつつ、水がなくなる事を待つというもの。
水がなくなってしまえば戦いを続ける事はできず、自分の巣穴に逃げ込むだろうと考えたのだ。
「こいつ、ウォーテールだけは他のドラゴンと違って隙を見せない。それも水がなくなればどうだ!?」
流石にこれではドラゴンブレスを吐く事ができない。
こうなればウォーテールのできる事は力強いアゴの噛みつきと鋭い爪の攻撃、それと棘のある尻尾での殴打だ。
「奴はもう間接攻撃ができない。爪や尻尾の届かない範囲から一方的に攻撃できるのだが……」
とはいえウィブに間合いを空けてもらいつつ攻撃しなくてはならない。
距離が離れれば俺たちの攻撃はかわされてしまう。
火の玉は避けられ、近付いて電撃を放っても硬い鱗で弾かれる。
「水を求めて逃げ去る所を剣で、と思ったが……奴め、なかなか背後を見せない……俺たちの攻撃も通らないな」
「決定的な攻撃ができないよね」
「隙がない……」
こんな状態でもウォーテールは逃げようとしない。前回はとっとと飛び去ったというのに、流石に今回は家族を討たれているからか、俺たちを倒さなければ復讐は遂げられないと思っているのだろうか。
「ルシル、セシリアに伝えてくれ! 例の作戦を実行する!」
「判った!」
ルシルはセシリアへ思念伝達で指示を飛ばす。
かねてより計画していたものだ。
「危ないのう!」
少し思念伝達に意識を向けていたら、ウォーテールの太い後ろ脚が俺たちを襲ってきた。
ウィブが急降下してギリギリの所でかわす。
「助かったよウィブ」
「そりゃあ儂もくたばりたくはないからのう」
「まったくだ」
少し距離を置いて、また遠距離攻撃を再開する。
「火の玉が飛び交う状態では、奴もおいそれと近寄れないだろうからな」
背後さえ取れれば。奴の隙さえ突けば。
活路は見える。
「ゴアァァァ!! おのれ、こざかしい事をっ! 小さい猿どもがっ!!」
しびれを切らしたウォーテールはいらだちを俺たちに向けるが、そんな安い挑発には乗らない。
「こうなればどっちが先に音を上げるか勝負だ! ウォーテール!!」
「ウガァァァ! 生意気っ! 生意気なチビ猿めぇっ!!」
勢いを増して突進してくるウォーテールの爪をかいくぐり背後を取ろうとするが、奴も身体をひねって背中を見せない。
「らちが明かないな……」
「でもゼロ」
「ああ。そろそろだろう」
遠くの方から地鳴りのような音が聞こえてきた。
「来たよ!」
「ああ!!」
轟音と共にやってきたのは、運河の中を流れてくる大量の水。
乾いた地面に浮き出た土ぼこりを吸い上げて、茶色く濁った水が波音を立てて流れ込んできた。
「フゴォォォォ!!」
「さあ! 飲みたければ飲むがいい!!」
流石にこれだけの量の水だ。ウォーテールも身体の渇きをいやすため、本能的に身体が水流に反応する。
今まで一度として見せなかった奴の背中が、俺たちの目の前にあった。