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髪の毛よりも蜘蛛の糸よりも

 俺は深く深く息を吸い込む。精神集中と、気合いを込めるために。


「ゼロが……いつになく本気になってる!」


 ルシルの茶々も気にしないくらいに気持ちを高める。

 目の前にはブルードラゴンのウォーテール。

 さっきと同じように口を小さく開いてこちらに狙いを定めていた。


「うむ、承知だのう」


 俺が口を開かなくてもウィブは察してくれている。このまま直進すると。

 俺は眼光鋭くドラゴンに集中する。


「コォォォ……」


 ドラゴンがブレスを溜め始めた。それに伴い周りの雷雲が吸収されていく。


「ゴアァァァ!!」


 ウォーテールがうなり声を上げて口から糸のような細い水を繰り出した。


「ゼロ! 来るよっ!」


 もとより俺は承知の上で超覚醒剣グラディエイトを構える。

 このまま直撃が来たら俺を貫通してルシルとウィブに穴を開けるだろう。

 そうさせないためにも。


「ふぅっ!!」


 目の前に迫るドラゴンブレスは正面から見ると点のように感じる。それ程小さく細い、だが勢いはなによりも強い力を持つ、触れれば一切の物を切り裂く凶器だ。


「シィッ!!」


 俺は噛みしめた歯の隙間から息を吐き出す。

 構えたグラディエイトに魔力を注入し、その刃先を細く、細く、極限まで細くする。

 魔力で作った刃だ。俺が想像すればするだけ細く薄くする事ができるだろう。


「すごい……ゼロ、剣の先が紙よりも……ううん、蜘蛛の糸よりも細く、鋭くなっている……」


 ルシルの声を耳にしても俺の集中は途切れない。

 見据えるは襲い来る小さく鋭い一点。


「セイッ!!」


 気合い一閃、ドラゴンブレスの点よりも細い線を当ててみせる。


「ぐぅっ……」


 こらえても漏れる声。だが俺の刃先はドラゴンブレスの先端を捕まえていた。

 目の前に切り裂かれて散っていく水の飛沫しぶき

 俺の剣は魔力でコーティングしているから刃こぼれ一つしない。


「勇者よ、よくぞ当てたのう……。それにあのブレスを切り裂くとは」

「思念体でいた頃に鍛えた想像力がここで発揮できたのよ!」


 ウィブをルシルは状況を分析しつつも次の動きを考えている。ウィブはそのままの体制を維持する事、ルシルは次の動きに対応する事。それがそれぞれに課された役割。


「ぐっ……くくっ……」


 俺の口から声が漏れる。流石にこの集中力を維持する事は至難の業。


「ゼロ! 今治癒するからね!」


 剣を握っている俺の手がシワシワになっていくのが見える。

 ルシルは俺から失われた水分を治癒で補充してくれた。これはウィブも同様で、吸い取られる水分をルシルが補ってくれるからできる事。

 嵐をつかさどるブルードラゴンと戦う事ができる理由だ。


「ぐぬぬ……」


 俺たちの協力とウォーテールの攻撃が押し合っている。気がゆるんだ方の負けで、俺たちにしてみれば連携が取れなくなった時点で負けだ。


「コアァァァ!!」


 ウォーテールはブレスを吐き続けるが、そこにも限界が訪れてくる。

 地面は草木が枯れて赤茶けた姿になるし、運河は戦う前から水がなくなっていた。

 俺たちから吸い上げられる水分もたかが知れているし、もう空中には造られた雷雲も吸い取られてしまっている。

 俺の散らしたドラゴンブレスでさえ、霧散した水分が空中に消えずにドラゴンへ吸収されていた。


「流石に……お前も喉が渇いただろう……」


 俺の声もガラガラだ。

 だがなんとかドラゴンブレスを散らす事に成功した。

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