集中放水で岩をも切り裂く
俺たちとブルードラゴンの高度はほぼ同じ。互いに正面を向いていれば接近までそれ程時間はかからない。
「ウィブ、決着を付けるか」
「承知」
俺はウィブの首に立ち上がって剣を構える。
高速で移動しているから後ろに飛ばされないように足を踏ん張る形になって、首に立つというよりはその後ろ、ウィブの肩に足をかけている状態に近い。
「一撃で行くぞ」
俺の意を受けてウィブが大きく羽ばたく。
それを感じてか、ウォーテールも加速し始める。
「コオオオォォォー!」
ドラゴンがブレスを集中させ始めた。
「ブレスが来るか」
「ゼロ、口の開きが小さい!」
ルシルが鞍から指摘する。
俺はドラゴンブレスが放たれても剣で斬り割くつもりだ。勢いは強くとも水は水。魔力を帯びて魔力で強化したグラディエイトと俺の剣技なら真っ二つにできるはず。
「大丈夫だ、俺に任せろ!」
ドラゴンの口の中が青く光る。
ブレスが生成されている所だ。
「来るよ!」
「おお!!」
ウォーテールの口から糸のように細いブレスが放たれた。
「細く……集中したブレスだと!?」
俺は踏ん張っている右足に力を入れてひねる。ウィブの首が左に傾いて体勢がずれた。
その少しだけ生じたずれだが高速で飛んでいると大きな傾きになる。
ドラゴンブレスは鞍の端とウィブの背中を少しだけ削り取った。
「ウィブ、被害は!?」
「う……表面を少し削られただけだから平気だのう。嬢ちゃんが治癒をしてくれているからのう」
ルシルはウィブの背中をスキルで治そうとしている。
「でもゼロ、見て……」
ルシルが視線で鞍の断面を示す。
切られた所が鏡のように光っていて、鋭利な刃物で切ったみたいになっている。
「水なのに……こんなにすっぱり切るとはな。ただの水流って訳じゃなさそうだ」
「ブレスの中になにか入っているのかな」
「いや、そうではなさそうだ。あの小さく開いた口……そうか!」
俺の想像が正しければ、これは厄介な話だ。
「どういう事、ゼロ?」
「いいか、水の入った革袋があったとする」
「うん」
「口を開いた状態で革袋を押すと、水はこぼれるよな」
「そうだね。でもそれがどうしたの?」
「じゃあ口を手でぎゅっと握って、出る所を小さくした状態で革袋を押すとどうなる?」
「うーんっと、あ。勢いよく出るね!」
「その通り!」
革袋から出る水と同じ、出口が小さくなれば水の出る勢いが増す。
「ブルードラゴンのブレスも革袋の水筒と同じ、出口をすぼめて勢いを付けているんだ」
「でも勢いが付いたって切り傷ができるくらいのブレスになるなんて……」
「だがそこまで力を強めているって事なんだろう」
「それってどれだけ強い力で出しているってのよ、あのドラゴン……」
俺もルシルも顔から血の気が引いていくのが解る。
「あのブレスを振り回されたら、あれだけの長さがある切れ味の鋭い剣で攻撃してくるって事だよね!?」
ルシルの言う通り、ウォーテールは間合いも広く威力も高い攻撃ができる。
「行けるかウィブ!?」
ルシルの治癒は終わっていた。ウィブは返事代わりに翼をはためかせて速度を上げた。
「ようし、もう一度頼む!」
「ゼロ! あんなのまともに食らったら、いくらゼロでも身体に穴が空いちゃうよ!」
「さあて、どうかな」
俺は久しぶりに感じる緊張と高揚が胸の奥に渦巻いている。
ぐるりと旋回した俺たちは、ウォーテールの正面に戻ってきた。